"あとがき"


 今回のタイトル『かけらの形』の「かけら」とは、劇中でバスターとレアナが話していた「命のかけら」のことです。レアナは過去の話(『螺旋の命』)でテンガイに死者の魂の行き場所や生まれ変わりについて尋ねていましたが、それは肉体ではなく、あくまで魂の話でした。レアナは『還りつく場所へ』で、最終的にバスターと共に魂だけの存在となって地球に戻り、クローンという肉体を得て生まれ変わります。しかし、彼女がそこにたどり着くまでを考えてみれば、死んだ後の肉体の行き先というのも疑問に思ったのではないでしょうか。ちょうど今は桜の季節。桜は日本の国花という華やかな一面を持つ反面、死者の血を吸って咲く不気味な花だとも言われています。そこでレアナに「桜の下にうめられた人の体は、その桜の一部になったってことでしょう?」と言わせることで、死後の肉体の行き先を問う話に持っていきました。『還りつく場所へ』と同じく、レイ・ブラッドベリの『万華鏡』の一節からも影響をまた受けてるんですけどね。主人公の宇宙飛行士は最終的に死んで地球に帰りますが、魂だけではなく、その体もほんのわずかな灰となって大地の一部となるだろうという箇所がとても印象的だったので。

 なお、レアナがバスターに自分の両親のことを話すエピソードは『眸』、その事件にバスターの父親が関わっていたという話は『No pain, No fear.』です。バスターの父親がレアナの両親のことと関係していたという設定は、私の創作なのですけどね。

 ところで劇中では、花見は日本の風習として捉えていて、バスターやレアナにはなじみの薄いものとして書きましたが、実際のところ、どうなんでしょ(汗)。テンガイ艦長はたぶん中国系かと思われますが、中国にも花見の風習があるのかわからなくて。結局、日本人である長官から艦長も教えてもらったということにしました。だって中国でも桜ってメジャーな花なのかわからなかったですし。調査不足ですみません(汗)。ついでに言えば、バスターは名前はイタリア風ですが、名字はロシア系なんですよね。本流はロシア系の家系だけど、イタリア系の血が混じっているということでしょうか(フランス人だけどイタリア系でもある、フィギュアスケートのフィリップ・キャンデロロ選手みたいに……古い?)。レアナは名字がフランスっぽいので、フランス系かなと勝手に思っているんですが。

 桜もちの材料についてですが、レアナが「ドーミョージコ」と言っているのは「道明寺粉」のことです。あのつぶつぶした独特の皮の材料ですね。あと宇宙船の食料に小豆は入れないだろうと思い、中身をクリームにした次第です。もっとも、クリエイタはともかく、レアナは小豆あんこをそもそも知ってるのかも疑問ですが。でも連邦軍長官が日本人だし、和菓子くらいは食べたことあるかも……。

 色々と資料不足に悩まされた一品ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました。それではまた。

(2005.04.12.)



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