[還りつく場所へ]


「もう間に合わない!」
「俺達は……俺達は、最後まで生き延びるんだ……!」

 バスターとレアナ、ふたりの叫びもむなしく、青と赤のシルバーガン2機は、「石のような物体」の放った閃光に追いつかれ、包まれていった。視界を真っ白に染める光の渦。同時に、体の感覚がなくなっていくのがわかる。バスターは閃光に体を飲み込まれながら、最後のうめきをあげ、それでもなお思考をめぐらせることをやめなかった。
(死ぬのか? 俺は……ここで死ぬのか?)
 そう思う間にも、体の感覚はどんどんとなくなっていった。もはや肉体が存在しているのかどうかさえわからなかった。それでも、バスターは薄れゆく意識の中で必死に思いをめぐらせた。
(ここで……宇宙で死んだら、俺は地球には帰れないんだろうか?……そうだ、ずっと前に読んだ小説にあった。宇宙で死んで、流れ星になって地球に戻った宇宙飛行士の話。あの飛行士の体はほんのわずかだけれど灰になって、地球に戻ることが出来た……けど、俺は駄目だろう。灰にすらなれないだろう……そうだ、レアナ! レアナは!?)
 まばゆい光のせいでもう見えないも同然の目で、バスターはレアナの乗るシルバーガン2号機を探そうとした。しかし、見えるものは光の洪水のみ。レアナの赤い2号機を見つけることは出来なかった。
(レアナ……せめてお前だけでも助けたかった。なのに、俺は……許してくれなんて言わない。ただ……もう一度だけでも……)
(バスター……)
 既に閃光によって肉体を失ったバスターの精神に、呼びかけてくるものがあった。他の誰でもない、捜し求めたレアナの声だった。
(レアナ……!? レアナ、そこにいるのか!?)
(いるよ。あなたのそばに……わからない?)
 バスターの精神のそばに、ひとつの存在の気配が現れた。それは最初は白く輝く光の塊だったが、次第に人の姿を取り始めた。そしてそれは、まごうことなきレアナの姿だった。
(レアナ……)
(あたしはここにいるよ、バスター)
 レアナがその肉体を持っていた時と同じ姿をとったように、バスターの精神もまた、彼の生前の肉体の姿をとり始めていた。レアナの精神体は手を伸ばし、バスターの精神体の手を握った。その感覚は、ふたりが肉体を持っていた頃とはどこか違うものだったが、それでも互いの温かさが伝わってくるような不思議なものだった。
(レアナ、すまない……お前を……こんな暗闇の宇宙で死なせてしまうなんて……)
(なにを言うの? バスター)
 精神体となったバスターと溶け合うように触れながら、レアナは微笑んで答えた。
(あたしはたしかに死んじゃったけど……でも、バスターがいっしょだから……ひとりぼっちになるよりも、ずっといいから……それに……バスターとはきっともう一度いっしょになれるよ。どこかに生まれてくるときに、同じ場所、同じ時に……)
(レアナ……)
(だから、バスターもそう信じて……信じれば、きっと願いはかなうよ……あたしは、ずっとバスターといっしょにいたいんだもの……)
 ふたつの精神は人の姿から再び光の塊に戻りはじめ、ひとつに交じり合っていった。バスターとレアナ、ふたつの魂だった存在は、宇宙の闇の中にほんの少しの間、浮かんでいたが、やがてすっと流れて消えていった。そう、ふたつの魂が戻るべき場所へ。地球へと……。

 それから20年後。人類が絶えた地球上で一組の男女が目覚めた。それは地球上に創造主として残されたロボノイド・クリエイタが生み出したバスターとレアナのクローンだった。そのふたりの中にある魂が、20年前に地球へと還っていったオリジナルのバスターとレアナなのであるかはわからない。それでも、彼らは最後のふたりが死んだのちに、最初に生まれたふたり。バスターとレアナの魂はクローンという形で再び肉体を得て、もう一度出会い、生を共にすることが出来たのだと信じたい。それはふたりが最期まで、いや、死してもなお、願い続けた想いなのだから……。



あとがき


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