[それはあどけなくとも真の愛]


 夜も深まったTETRA内のバスターの個室。こじんまりとした部屋の片隅の寝台にはこの部屋の主であるバスターが座り、その膝の上には誰よりも愛する恋人であると同時に何よりも大切な妻でもあるレアナを抱き上げていた。
 バスターの大きめのパジャマの上衣だけを半ばはだけるようにラフに羽織ったレアナと、そんな彼女を抱き締めて、やはり同じく裸の身に自身のパジャマのズボンだけを履いたバスター。身を寄せ合う二人が腰を下ろす寝台は白いシーツが大きく乱れており、二人がほんの少し前まで共に過ごした時間の激しさを如実に物語っていた。

 バスターに抱き締められ、その広い裸の胸に身を寄せていたレアナだったが、ふと顔を上げ、バスターに声をかけた。
「ね、バスター……」
「ん?」
 不意に名前を呼ばれたバスターがレアナの顔を見ると、レアナは小首をかしげて彼に言葉を続けてきた。
「あたしがもう少しおとなっぽかったら……もっと、うれしかった?」
 思ってもいなかった質問を不思議に思いながらも、バスターは笑って問い返した。
「どうした? いきなりそんなこと尋ねてくるなんて?」
 レアナはバスターの顔を見つめたまま、どこか不安げに言葉をこぼした。
「だって……バスターはすごくおにいさんでおとなっぽいのに……あたしはそんなバスターとちゃんとつりあってるのかなって……」
 先ほど以上に思いがけないレアナの言葉に、バスターは笑ったまま言葉を返した。
「おいおい、俺とお前は一歳しか違わないんだぜ?」
 バスターのもっともな言葉を受けても、レアナはなおも不安そうなままだった。
「一歳でもバスターのほうがおにいさんなことは変わりないもの……」
「まあ、そうだけどな。一歳だけでもお前がガイより『お姉さん』なのと同じでな?」
 からかうようなバスターの態度に、レアナは少し怒ったような顔を見せた。
「え、えと……だ、だって! ガイはあたしのこと、すごく年下の子どもみたいにあつかうときがあるんだもん! あたしのほうが年上なのに!」
 ぷうっと頬を膨らませたその表情も言い方も18歳とは思えない幼さだったが、そんなどこまでもあどけないレアナがバスターにはたまらなく愛らしかった。
(やれやれ……こんな子供っぽい顔を未だに見せるのに、俺はこいつの何もかもに首ったけになっちまったんだからな……)
 そんなまぎれもない自身の本心を改めて噛みしめるように確認しながら、バスターはレアナに声をかけた。
「俺がお前のことを本当に子供だと思ってるのなら……いま、俺はこんな格好でそんな大胆な姿のお前をこうして抱いてねえぜ? それだけじゃねえ、さっきまでみたいなお前との二人だけの時間も過ごしてねえけどな?」
 バスターの言葉に彼と深く愛し合った先ほどまでの時間を思い出し、レアナはかあっと顔を赤らめた。
「やだ……バスターってば、もう……」
「それに……こんなこともな……」
 そう言うとバスターは顔を近づけ、レアナの唇を素早く奪った。レアナは一瞬だけ驚いた顔をしたが、静かにまぶたを閉じてバスターのたくましい裸の上半身に抱きつくと、重ねられた彼の唇を素直に受け入れた。
「バスター……ん……」
「レアナ……」
 決して短くはない時間、重ねた唇を通して二人は想いを通じあった。やがて、ようやくレアナの唇を解放したバスターは、優しく微笑んで愛する少女の名前をささやいた。
「レアナ……お前はそのままでいいんだよ。俺が愛してるのは他の誰でもないお前自身なんだ。お前ただ一人だけなんだ……」
「バスター……」
「俺はいまのお前のすべてが愛しいんだ。それじゃ不満か? レアナ?」
 バスターの問いかけに、レアナは慌てたように首を横に振った。
「ううん……そんなことない……。うれしい……すごくうれしいよ、バスター……」
 相変わらずあどけなくも実に嬉しそうに微笑んでうなづくレアナの様子に、バスターは満足した表情で右手を伸ばすと、彼女のつややかな髪の毛をくしゃっと撫でた。
「なら……この話はこれでおしまいだな」
 優しい笑みと共にそう言葉をかけると、バスターは腕の中のレアナを乱れたままの寝台に押し倒した。そして、もう一度、深くレアナの唇を奪っていた。
 そんなバスターにレアナは何もあらがうこともなく、先刻と同じように静かに彼を受け入れていた。
 愛を交わしあう恋人たちに再び訪れた深く熱い時間。バスターとレアナ、愛しあう二人の濃厚な夜は、日付が変わろうとしても、今宵もまだ終わりそうもなかった。

 終わりかけようとしている世界で生まれた最後の愛。その形にはたとえどこか未熟であどけないものがあろうとも、バスターにとってもレアナにとっても、お互いを真摯に包みこむ想いは確固として本物であり、それがどこまでも深い真実の愛であることは間違いなかった。



あとがき


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