[たましいの絆]


 バスターは世渡り上手で人当たりも決して悪くない。だが、人間不信気味であることや明るくない過去といった要素が、時々、彼の言動に棘のようなものを与えていた。

 しかし、TETRAに配属になってから、バスターは少しづつ変わっていった。以前の――そう、例えば士官学校時代の彼を知っているものから見れば、「丸くなった」とでも言うべきだろうか。

 バスター自身は当初は自分の変化に気付いていないようだったが、長年の経験から人を見る目を養ってきたテンガイには、彼が変わり始めていることに、配属初期の頃から気付いていた。ロボノイドでありながら「感情」を与えられ、細やかな配慮心を持つクリエイタも同様だった。あまり人間関係に敏感でない同僚のガイから見ても、バスターに初見時に抱いていた印象は、段々と変わっていた。

 そしてバスターを変えた主犯とも言える人物――レアナも、バスターの変化には気付いていた。彼女はバスターがどこか心を閉ざしていることや裏のある言動を人一倍、気にしていたから、テンガイに負けず劣らず過敏であったとも言えるだろう。

 バスター本人も鈍くはなく、むしろ鋭敏な精神の持ち主であるから、いつまでも気付かないというわけはなく、自分がどこか変わりつつあることに、いつしか気付き始めていた。いちばんの原因はTETRAクルーたちとの共同生活――とりわけ、レアナとの触れ合いであるということにも。

 レアナがバスターの好みのタイプの女性かと言うと、そうではない。バスターは18歳という実年齢の割に大人びていたし、人生の裏街道を見てきた経験もあるから、どちらかと言えば、世慣れした大人っぽい女性のほうがタイプだった。実際、今までに彼が付き合った女性のほとんどがそうであった。ただ「付き合った」と言っても、2週間も持てばいいほうで、真面目に交際したことなど一度もなかった。だから、レアナに対して初めて抱いた感情の正体を理解するまでに、バスターは一人悶々とした。レアナがあんまりにも子どもっぽくて放って置けないから? バスターを無邪気に慕ってくれるから? 悩んだ末に、バスターは自分の心を悩ます思いが、レアナへの恋愛感情なのだと気付いたのだが。そしてそれが実質的な「初恋」であり、初めて本気で異性を好きになったのだということにも。

 バスターが自分の想いに正直になり、レアナと相思相愛の仲になったあとも、バスターは自分にとってレアナがどんな存在なのかを時折考えた。レアナは彼にとって、ただの恋人以上の存在に思えたからだった。レアナはバスターを包み込むような優しさを持っている。けれどレアナもバスターのそばにいると暖かい思いになれると言ってくれた。そういったレアナの純粋な笑顔と言葉は、バスターの心の奥底まで届く不思議な想いであり、恋愛感情以上のものだった。

 そしてバスターはようやく結論に辿り着いた。レアナは彼の「半身」なのだと。人が生まれたときから探し続けるという「片割れ」なのだと。バスターはそういったロマンチックめいたことを信じないリアリストだったはずだが、レアナとは魂のレベルから繋がっているような錯覚さえ覚えていた。そういったことを半ば照れながらレアナに話すと、彼女はバスターらしからぬ発言を馬鹿にすることなどなく、にっこりと笑ってバスターの胸に顔をうずめて、こう答えた。

「あたしもそう思う。バスターと出会えてこうやっていっしょにいられるだけで、こんなに幸せなんだもの」

 レアナの返答を聞き終えたバスターは、彼の胸に身を寄せるレアナを強く抱きしめていた。なぜなら、彼も全く同じ想いをレアナに重ねていたから――。


 バスターとレアナのその後を考えると、二人があんなにも惹かれあったのは当たり前のことだったのかもしれない。「最後の人類」となり、同時に、「最初の人類」として生まれ変わったのだから。けれど、繰り返される輪廻が断ち切られても、二人は常に「対」の存在として生まれてくるのだろう。

 ――それは何度も出会い、短い命のなかで繰り返し惹かれあった二人が祈った、切なる願いなのだから――。



あとがき


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