[FAMILY]


「お前がクリエイタか。俺はガンビーノ=ヴァスタラビッチ。バスターって呼んでくれ。そっちの通称のほうが通りがいいしな。これからよろしくな、クリエイタ」
「あたしはマリアン=レアノワールっていうの。でも、レアナって呼んでね。みんな、そう呼んでくれてるし。仲良くしてね!」
「痛てて……艦長、もちょっと手加減してくれよな……。おっと、俺様は五十嵐=凱!ガイって呼んでくれ!よろしくな!」


 クリエイタは、意識が戻ってくる感覚に目覚めた。ロボノイドである彼は、眠りを必要とはしない。大掛かりなメンテナンスやチューンアップを受ける際に、一時的に意識を消失させることはある。だが、今、この人類が消えて間もなく20年の月日が経とうとしている地球において、意識が完全に消失し、二度と回復もしない時はただひとつ。自身の人工頭脳の寿命が尽きるときだけである。確かに20年の長きに渡って全くメンテナンスを受けていないクリエイタの人工頭脳は、ボディ同様、寿命を迎えようとしていたが、それでも、この20年の間、意識が一時的にでも消失するなどということはなかった。何故、自分はさきほど意識を失っていたのだろうか?人工頭脳の寿命が近づくと、意識を一時的にでも失うという危険なこともあり得るのだろうか?それに、あの記憶は……?自分はもしかして、「夢」を見ていたのだろうか……?


 西暦2515年。クリエイタは、「人間的な思考のゆらぎとカオス」を取り入れる試みを行われた最初のロボノイドとして開発開始された。生まれたばかりの人工頭脳は、まず仮のボディに入れられ、思考のゆらぎやカオスを調整し続けていく一方で、人類のこれまでの歴史や書物、文化等の様々な知識を教え込まれていった。そして2519年。初めて「感情」を持ったロボノイドの一体となり、現在の「完成型」のボディに入れられ、軽級巡洋艦TETRAに配属されることとなった。

 あの日のことは、20年以上を経た今でも、鮮明に覚えている。西暦2520年の初春。クリエイタは配属先のTETRAへと、テンガイに連れられて入船していった。果たして、この巡洋艦にはどんなクルーが乗っているのだろうか……上手くやっていけるだろうか……「感情」を持つロボノイドであるクリエイタにとって、それは人間と同じく、不安の入り交じった時間であった。

 パーン!パパンパーン!!突然鳴り響いた音に、クリエイタの聴覚は一瞬、その機能を停止させかねないところだった。恐る恐る顔を上げてみれば、3人の若者が、既に弾かれたクラッカーを手に、笑顔で立っていた。それがバスター、レアナ、ガイとの出会いだった。

「こら!お前ら、ワシを心臓マヒで殺す気か!」
 クリエイタの傍らに立っていたテンガイは、クラッカーの歓迎に一瞬固まったものの、すぐに大声を上げた。しかし、本気で怒っている訳ではないようだった。
「悪りぃ、悪りぃ。でも、艦長の心臓ならこれぐらい平気だろ?毛まで生えてそうだもんな」
「なんだと!ガイ!」
「うあ!勘弁してくれよ、艦長!」
 ガイと呼ばれた若者とテンガイのそんなやりとりを、やれやれといった風情で、赤毛の若者ともうひとりの少女は眺めていたが、呆然としているクリエイタの様子に気付き、いつものことだからと笑いながら言ったあと、そのまま各々、自己紹介をしてくれた。そして、TETRA内部を案内してくれたあと、クリエイタを歓迎してのささやかなパーティまでも開いてくれた……。

 自分は人間の補佐を役割として作られたロボノイド。それなのに、彼らはまるで人間の新しいクルーを迎えるかのように、自分を出迎えてくれた……。そのことに、クリエイタの人工頭脳に植え付けられた「感情」は、喜びとそれ以上の何か……心を震わせるような衝撃を感じていた。それからのTETRAでの日々は、あの衛星軌道上での1年間も含めて、辛いこともあったものの、それ以上に楽しい記憶の連続だった……。人間が持つ「家族」とは、こんなものなのだろうか?クリエイタは、時折そんな疑問を巡らせることもあった。


 だが、現在、クリエイタが共に過ごした「家族」はもう居ない。思い出を共に過ごしたクルー達は、皆、西暦2521年のあの戦いで命を落とした。今、クリエイタのそばには確かに人間は居る。しかし、その二人……バスターとレアナのクローンは、培養ケースの中で眠り続けている。クリエイタが寿命を迎えてこの地球から消える日まで、二人が目覚めることはない。クリエイタは、寿命の近づいたボディをミシミシと言わせながら、二人の眠る培養ケースに近づいていった。
「バスター……レアナ……。ワタシハ ”ユメ”ヲ ミマシタ……。アナタタチト トモニ スゴシタコロノ ”ユメ”デス……。アナタタチモ イマ ナニカ”ユメ”ヲ ミテイルノデショウカ……?ソレトモ……モシカシテ……アナタタチガ……アノ”ユメ”ヲ ミセテクレタノデショウカ……?」

 クリエイタは培養ケースの中の物言わぬ二人に問いかけながら、アイモニターを閉じ、静かに祈るように、ひとつの願いを託していた。どうか、どうか、この二人が作る「家族」が……人類で最初の「家族」が……あの頃のような幸せなものでありますように……と。



あとがき


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