No.68…"SIMPLE DSシリーズ Vol.48 THE 裁判員 〜1つの真実、6つの答え〜"(2009.5.21/DS/開発:ウィッチクラフト/販売:ディースリー・パブリッシャー)

 2009年5月21日から施行された「裁判員制度」。本作はその施行に合わせて発売されたゲームだが、決して単なる無機質な裁判員シミュレーションにはなっていない。むしろ、監督と脚本を手がけた遠藤正二朗氏の個性が強く出た「人間味あるテイスト」を持ったゲームとなっているし、そのシナリオやキャラ設定の水準や作家性の高さには目を見張るものがあり、低価格の「SIMPLEシリーズ」だからといって侮れない作品に仕上がっている。

 プレイヤーはある事件で無念の死を遂げた青年の幽霊となり、あの世の廷吏・ヤマヤマの力を借りて色々な裁判の裁判員に憑依して裁判に参加し、裁判を正しい方向へ導こうとしていく。この設定だけを抜き出して書くとイロモノのような印象を覚えるだろうが、肝心の法廷シーンはいたってシリアスかつ現実的に進んでいき、プレイヤーは計5件の事件の裁判員裁判に関わることになる。

 扱われる裁判や罪状の内容は全5話それぞれで全く異なり、扱う裁判によって有罪にすべきなのか無罪にすべきなのかという方向性も異なってくる。それら全ての裁判の過程、そして結果において、プレイヤーは裁判員という立場から、様々な問題について考えさせられる。その結果が「正しい裁判」であり、グッドエンドであったとしても、何も残らない判例というものは、このゲームの中には存在しておらず、そこからもシナリオの完成度を評価出来る。

 前述したシナリオや「裁判員」という要素以外にも、登場キャラ達、具体的に言えばプレイヤー以外の各事件の裁判員に裁判官、検察官、弁護人、被告人、証人といった脇キャラに至るまで、それぞれが個性豊かに描き出されており、よくこれだけ多数のキャラをきちんと立たせたものだと感心させられる。

 しかし、その反面、システムが洗練されておらずテンポが悪いことが残念な点である。セーブひとつ取っても、データをロードするとセーブ箇所からではなく、その直前の「チェックポイント」からの開始となってしまう面倒な仕様になっている。また、裁判員制度の要とも言える「評議」においての説得システムが単調な証拠確認作業となっている感も否めないし、その証拠集めの場である法廷においてテキストのバックログ機能がないというのも難易度的に少々辛いものがあった。

 何より、導入である第1話において、法曹界の専門用語が飛び交ってテンポが悪くなっているばかりか、難易度的にも、この第1話が最も高くなってしまっている。そのため、この時点でプレイを放棄してしまうプレイヤーがいてもおかしくないという点は実に惜しいことである。

 以上のようにシステムの欠点は大きなものがあるが、ADVにおいて重要なシナリオは非常に高水準なので、ADVが好きならば、シナリオ周りの欠点に目を瞑ってもプレイする価値はあるソフトであると思う。それに、これだけの力作が埋もれてしまうのは、勿体ないことなのだから。

 また、本作と同様に裁判員裁判をテーマに扱っていて、同日にハードも同じDSで発売された『有罪×無罪』も、システムこそ大きく違うがこの『THE 裁判員』に勝るとも劣らぬ名作である。本作をプレイされた方には是非、こちらのもう一つの裁判員裁判の物語もオススメしたい限りである。



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