No.81…"ウィッシュルーム 天使の記憶" (2007.1.25/DS/開発:シング/販売:任天堂)

 DSが発売されて3年目、DSが最も盛り上がっていた時期だったと言っても過言ではない2007年にこのゲームは発売された。TVCMも頻繁に流されたこともあってか、21万本と完全新規のアドベンチャーゲームとしては大成功と言ってもいい売り上げを叩き出している。

 舞台となる日時は1979年12月28日、場所は「ホテル・ダスク」という名の寂れたホテル。元刑事であり、現在はいわくつきの探し物を見つける裏の仕事も行っている訳ありの会社「レッドクラウン商会」のセールスマンであるカイル・ハイドは上司エドの指示を受け、ホテル・ダスクへとやって来た。そこで出会った不思議な少女ミラとの出会いを皮切りにカイルは様々な人達と出会い、最終的には3年前に失踪した親友ブライアン・ブラッドリーが残したメッセージへと辿り着くこととなるのである……。

 ジャンルとしては前述したようにアドベンチャーゲームであるが、操作はタッチペンオンリーで行われる。しかし、この操作性がお世辞にもあまり良くなく、早く歩けない移動シーンなどではストレスを感じることも多々である。また、ストーリーの中の謎解きについてもノーヒントでは難しいものも多く、中には最初のワイヤーハンガーを加工する謎解きで投げてしまった人もいたのではないかと思ってしまう。この最初の謎はそれくらい判定がシビアだからだ。

 また、重要な会話シーンでは話の内容に合わせてカイル=プレイヤーが選択肢を選ぶ仕様になっているのだが、間違った選択肢を選ぶと一撃でゲームオーバーになってしまう厳しさである。更に尋問に近い内容ともなると、選択肢を選ぶ順序ですら間違えることが許されないため、何度も失敗してしまうとカイルでなくとも「ああ、駄目だな、俺って……」とがっくりきてしまうことだろう。

 だが、アドベンチャーゲームとしてのそれらの欠陥を補って余りあるほど切ないストーリーとキャラには魅力が溢れている。主人公のカイルをはじめとして大なり小なり過去に傷を背負った登場人物が多いが、それゆえに彼らの人間臭さには惹かれてしまう部分がある。例えば夕食のリブステーキとシフォンケーキを平らげて満足げに微笑むカイルの姿を見るだけでも、こちらまで幸せな気分になってしまいそうな気がする。魅力的なキャラ達の中でもカイル・ハイドが最も魅力的に映るのは単にプレイヤーの分身であるだけではないだろう。

 彼に関わるキャラ達、特に女性キャラは謎の少女ミラや父親と共に宿泊しているまだ幼いメリッサ、ホテルのベテラン従業員ローザに妙齢の宿泊客のアイリスや元手品師の老女ヘレンと様々だが、中でもホテル内では直接登場しないがカイルと頻繁に電話でやり取りする同僚のレイチェルの存在感が大きい。実はこのゲームは二周目でエンディングの細部が変わるのだが(一周目でも一度もゲームオーバーにならなければ二周目と同じエンディングが見られる)、二周目の変更要素の中にはエンディング以外にもゲーム本編でのレイチェルのカイルへの態度の変化も入っており、二人が実は単なる同僚以上に親しい関係であることが分かるようになっている。これはカイルとレイチェルの仲を密かに応援したくなるニクい仕様であろう。

 現在では発売されてから6年が経ち、携帯ハードもDSから3DSへと完全移行したが、まだまだ古臭さは感じさせないゲームである。なお、全編の登場人物のグラフィックには「ロトスコープ」という手法が使われており、これが『ウィッシュルーム』独特の世界を作り出すのに大きな役目を背負っている。これも『ウィッシュルーム』が簡単に古びれていない理由でもあろう。今なら新品でも安く手に入るはずであるから、興味を持たれた方は一度手に取ってほしい佳作である。



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