[愛する天使を抱きしめて]



 バスターが目を覚ますと、薄暗い部屋の見慣れた天井が目に入ってきた。
「まだ起きる時間じゃなさそうだな……」
 そうつぶやいてバスターが枕元に備え付けられた時計を見ると、バスターが予想したとおり、起きるにはまだ早すぎると言える時刻だった。
「バスター……」
 不意にすぐそばから耳に馴染んだ声で自分の名前を呼ばれたため、バスターが声のしたほうへ顔を向けると、レアナがバスターの左腕を枕にしてすやすやと眠っていた。そんなレアナも、そしてバスターも、二人とも何も身につけておらず、一糸まとわぬ無防備な姿だった。
「レアナ?」
 バスターはレアナの名前を小さく呼んだが、レアナはまぶたを閉じたままだった。どうやら、夢の中でバスターの名前を呼んだらしかった。
「なんだ、寝言か……けど、どんな夢を見てるんだろうな、お前は」
 バスターは微笑んで右手を伸ばしてレアナの頬をそっと撫でた。レアナは目を覚まさず、眠ったままだったが、その愛らしい口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「いい夢……みたいだな」
 バスターはそうつぶやくと、レアナと深く愛し合った昨夜の濃密な時間を思い出していた。

「バスター……来て……はやく……」
 真夜中に生まれたままのあらわな姿でバスターと愛し合うときのレアナは、昼間の子供っぽさが嘘のように大胆なうえにたまらなく扇情的な「女」の顔をしてバスターを誘っていた。そんなレアナの官能的な様は、言うまでもなく、バスターにとってたまらなく魅惑的だった。バスターは愛するレアナを深く強く求めて、彼女のすべてを熱烈に愛しながら、その愛しい名前をひたすらに呼んでいた。
「レアナ……! レアナ!」
「ああ……バスター……! バスター……!」
 愛するバスターに繰り返し愛撫されるとその末にレアナの体はすっかり熟して、猛ったバスターをその身に受け入れてひとつになって愛し合う準備が整う。バスターと結ばれてひとつになると、自分の体を何度も深くまで貫くバスターの名前をレアナは甘い声で幾度も呼び、夢中で彼のたくましい体に抱きついてきた。そんなレアナをバスターも抱き返しつつ、レアナの華奢な体の奥底を、たぎった自分の「男」としての分身で攻めるのだった。
「レアナ……! 愛してる……! レアナ!」
「バスター! あたし……も……! ああ……ん! もっと……もっと……! バスター……!」
 バスターがレアナを愛し求めると、それ以上にレアナはバスターを求めてくれる。バスターはそれが嬉しくて無意識のうちに体の動きも激しくなるのだが、そんな激しいバスターをレアナはいつもさらなる歓喜の表情と言葉で受け入れてくれた。抱き合ったバスターの体と密着している、はちきれんばかりのたわわな果実のように豊満なレアナの両の乳房も、バスターに熱烈に愛される喜びに呼応するかのように、バスターの激しい体の動きと一緒に大きく揺れて、その様はバスターの情欲をさらに誘った。
「く……! レアナ!」
「バスター……! ああん……! バスター!」
 二人がひとつになって愛し合った末に共に絶頂を迎え、バスターが自らの熱い精をレアナの体の芯の奥深くへと吐き出すと、レアナはひときわ大きな声をあげてバスターにますます強く抱きつき、彼の白濁した熱く濃い精を余すところなくその身の奥底に受け入れた。バスターの愛は何もかも受け止めると言わんばかりに。
 バスターがレアナの体の中へと解き放つ熱く白い精が何を意味するものなのかは、相変わらず精神年齢が実年齢よりも低いとはいえ、さすがに何度も愛し合う中でレアナも分かっていたが、レアナはすべてを知っているうえで、毎夜の愛の営みのたびに、バスターの熱い精を一滴残らず、自らの体の芯の奥底へと受け入れていた。ひとつになってレアナの体の最奥に入り込んでいるバスターがレアナの中に熱く刺激的な精を解き放つその瞬間まで、レアナは決してその体をバスターから離そうとはしなかった。
 バスターはレアナの中に自身の精を解き放つ行為がレアナの体にもたらす可能性の重大さを考えて、一度、自らその行為をやめようとしたが、バスターと愛し合って彼のあらゆる愛の行為をその身に受け止める当の本人であるレアナ自身がそれを拒んだ。
 たとえバスターの子供をレアナが身ごもることになっても、それこそが自分には何よりも喜ぶべきことだとレアナは笑顔で答えた。レアナは誰よりも愛する人であるバスターとの愛の結晶が一日でも早く自身の体に宿ることを待ち望んでいるようでさえあった。
「バスターは……あたしとの赤ちゃん……できないほうがいい……?」
「何を言い出すんだよ……。この世でいちばん愛してる女の腹に俺の子供が宿るなんて、そんな極上の幸せ、その辺には落ちてないぜ?」
「バスター……!」
「だから……本当にいいんだな? レアナ?」
「うん! いっぱい……うんといっぱい……愛して……。あたしのお腹の中に早くバスターの赤ちゃんができるように……おねがい……バスター……」
 レアナの望みを知ったバスターも、もしレアナが彼の子供を身ごもったとしても、そのときはすべてをかけてレアナだけでなく彼女の体の中の新しい命、すなわち自分とレアナの子供も守ると自分自身とレアナに誓った。それから毎夜、バスターはレアナと愛し合うたびに、レアナへの揺るぎない愛と同時にまだ見知らぬ命である我が子といつか出会える希望をいっそう込めて、レアナの体の芯の奥まった深部へと、彼自身のレアナへの愛そのものである熱い精を放つようになった。
 バスターとレアナが夜ごとに愛し合うようになって一か月近く。二人が搭乗しているTETRAはほぼ一年間も宇宙空間である地球の衛星軌道上に退避しており、その状況はどう考えても非常事態であるという現実が、レアナの体が新しい命を宿そうとすることに負の影響を与えているらしく、レアナの月経はもう何ヶ月も止まったままであり、それはつまり、排卵も止まったままであるという事実を示していた。それゆえに、バスターの精がどれだけレアナの体の中に注ぎ込まれても、その精が彼女の卵子と結実して愛の結晶を実らせるには至っていなかった。
 だが、バスターのとびきり熱く濃厚な精をその身に受け入れるとき、常にレアナはバスターに愛されている実感を体の奥底から感じているように満足げで嬉しそうな表情を見せ、うっとりととろけるように甘く魅了的な声をあげるのだった。
 そんな風に二人が激しく愛し合った官能に満ちた時が過ぎると、バスターも、そしてレアナも、体の力がすっかり抜けたようにぐったりと、だがしっかりと抱き合ったまま、寝台に勢いよく倒れ込むように身を横たえ直した。
「バスター……」
「……どうした?」
 高ぶった己の想いを凝縮した証である白く刺激的な精を吐き出して鎮まった己の半身をバスターがレアナの体の中から引き離して答えると、レアナはバスターのほうへと両腕を伸ばして懇願するようにつぶやいた。
「大好き……このまま離れないで……バスター……」
「ああ……もちろんさ……」
 バスターがレアナの額に汗で貼り付いた髪の毛を指ですくい取りながらそう返すと、レアナは安心してほっとため息をつき、無邪気な子供のような微笑みを浮かべた。その愛らしさに、バスターはレアナを心から愛しいと思う感情をどうしても止められなかった。バスターが抱きしめ直したレアナの唇を思わず奪うと、レアナはそんなバスターにも抗わず、自然と二人は今夜で何度目かの熱く濃密なくちづけを交わして深く愛を確かめ合った。
「バスター……」
 バスターがレアナの唇を解放すると、レアナはまた、愛しげにバスターの名前を呼んだ。
「ん?」
「……なんでもない。ううん、でも、やっぱり……」
「やっぱり?」
「……おねがい、あたしが寝るまでずっとこうしていて……あたしのそばにいて……」
「そんなの言われるまでもねえよ……俺だってお前をこのままあっさりと離したくなんかないんだからな?」
「バスター……ありがとう……! あのね……バスターにこんなに愛してもらえてすごくうれしいのに……すごくつかれちゃって……ねむいの……」
 レアナがそう声をあげてバスターに抱きつくと、ほどなくして穏やかな寝息が部屋の中に静かに響いた。そのいとおしささえ覚える可愛らしい寝息を聞きながら、バスターも自然と眠りに落ちるのが毎晩の常だった。

「本当に……お前をこうして見つめているだけで、なんでこんなに心が落ち着くんだろうな」
 レアナの寝顔を見つめながら、バスターは愛しげに微笑んでつぶやいた。そして顔だけでなく体も横になってレアナのほうを向くと、右腕をレアナの裸の体に回して抱きしめて、優しさに満ちた紫色の瞳でレアナの寝顔を改めて見つめ直した。
「まだまだ起きるには早い時間だけど……いいさ。こうしてお前を見つめていられる時間が増えたと思えばラッキーだ……」
 バスターはそうつぶやき、右腕で抱きしめたレアナを見つめた。レアナを抱きしめるバスターの右腕には自然と力が込められ、腕の中の愛する少女、彼の天使を決して離すまいとした。レアナを抱きしめたまま、彼女と深く激しく愛し合った余韻に浸るかのように、バスターは一つ一つの言葉を噛みしめて、優しくレアナに話しかけた。
「レアナ……愛してる。昼間の無邪気なお前も、真夜中の艶やかなお前も……お前のなにもかもが、たまらなくいとおしいんだ。もう俺は、お前がいない世界なんて考えられないんだからな……? まずお前と出会えたこと、そして毎晩、お前とあんなにも愛し合えるうえにこうして一緒にいられること……こんな状況だってのに、俺はこんなにも幸せでいいのかって、つくづく思うぜ……」
 まだ明け方と言うにも程遠い時間。こじんまりとしたバスターの部屋の中、そこにあつらえられたやはり広くはない寝台の上では、バスターとレアナ、心から愛し合う二人が何もまとわぬ裸身のまま、身を寄せて共にいられる幸福に包まれていた。



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