[心と体、一つに結ばれる幸福]



「くう!……う!」
「あ……ああん!」
 レアナの胎の奥深くに、彼女へのありったけの想いの凝縮である熱く白い精を勢いよく吐き出した後、繋がっていたレアナの体の中から身を離すと、バスターは自分の体の下の愛しい少女を見下ろしながら、ぜいぜいと荒い息をついた。それはレアナも同じで、とろんとした視線のまま、はあはあと大きく呼吸をしていた。生まれたままの姿の二人の肌には汗の玉が幾つも浮かんでいた。
「バスター……」
 呼吸を整えたレアナが、自分の体の上に覆い被さるバスターの名前を呼んだ。バスターは右手でレアナの左手を強く握り、彼女を気遣うように返事を返した。
「どうした……?」
 レアナは黙ったまま、青い瞳でバスターを見つめていた。その瞳は潤んでおり、バスターが紫色の瞳で見つめ返すと、レアナの瞳から涙が一粒、こぼれ落ちた。
「レアナ……?」
 バスターがいぶかしげにレアナの名前を呼ぶと、レアナの瞳からはなおも涙の粒が止まることなくこぼれ落ちた。バスターはそっと、その涙の粒を指先でぬぐい取った。
「どうしたんだよ、いったい……」
 バスターが問いかけると、レアナは片手を伸ばし、バスターの頬に触れた。
「絶対に……死んじゃいやだよ……?」
「え?」
「地球に降下しても……あたしを置いて死んだりしちゃいやだよ……?」
「レアナ……」
 バスターは少しだけ戸惑った表情を見せたが、すぐに笑顔に変わった。それはつい先程まで激しく愛し合った後だとは思えないほど、優しい笑顔だった。
「どうしたんだよ……いきなり、そんなこと言って……」
「……怖くなっちゃったの」
「何がだ?」
「……さっき、窓から地球を見ていたら……地球にはたくさん敵がいるんだろうなって思ったら……地球に降下したとき、バスターが死んじゃったらどうしようって……急に怖くなっちゃったの……」
 レアナの言葉を聞いたバスターは黙ってレアナの体を抱きしめ、唇を重ねた。熱を持ったレアナの唇は甘く、二人は長い間、そうやって息を交わし合った。ようやくバスターがレアナの唇を解放すると、レアナはほんのりと顔を赤らめていた。だが、その表情からは不安は消えていた。
「落ち着いたか?」
 バスターがレアナを抱きしめたまま、その髪を撫でると、レアナはこくりと頷いた。
「……うん」
「安心しろ。俺は絶対に死んだりしないから。お前を置いて死ぬなんて、そんなことはしない……絶対に、な」
「バスター……」
 レアナはしばしバスターを見つめると、バスターの背中に両腕を回し、ひしとバスターのたくましい体に抱きついた。バスターもそんなレアナを抱く腕に力を込め、二人はお互いを求めるように強く抱き合った。
 バスターがレアナの顔を見つめると、もうその瞳には涙の粒は浮かんでいなかった。少し赤みを帯びたレアナの目元に口づけを落とすと、バスターは優しくささやいた。
「……落ち着いたみたいだな」
「うん……ごめんね、バスター……」
「謝ることなんてねえさ。こんな状況で一年前のことを思い出したら、そんな風に不安になるのも仕方ないだろうしな」
「ありがとう……バスターはやっぱり、やさしいね……」
「今頃、気づいたのか?」
 バスターがおどけたようにそう言うと、レアナはクスッと笑った。
「だって……初めて会ったときから、バスターはあたしのこと、よくからかってたじゃない」
「そうだったか?」
「そうだよ。でも……いつの間にか、そんなバスターのことが大好きになっちゃってたんだから……不思議だよね……」
 笑顔で無邪気にそう告白するレアナの表情はあまりにも愛らしく、バスターは自分の顔がかあっと赤くなるのを感じた。それをレアナに悟られまいと、バスターはもう一度、レアナの華奢な体を強く抱きしめた。
「え……バスター?」
 レアナはバスターの突然の行為に少なからず驚いたが、それを嫌だとはまるで思わなかった。腕を伸ばし、バスターの赤い髪をレアナがそっと撫でていると、バスターがレアナの耳元でささやいた。
「……俺も、お前がこんなにも大事な存在になるだなんて思ってもいなかったよ……けど、今なら間違いなく言える。レアナ……愛してる。この世の何よりも、だ」
 思いがけないバスターの愛の告白に、レアナの顔は朱に染まった。だが、ほんの少し戸惑ったとはいえ、それよりも喜びの感情のほうがはるかに大きかった。
「俺は本当に幸せだ……お前とこんな風に身も心も一つになれるんだからな」
 バスターの言葉に、レアナはもはや毎夜のこととなったバスターとの愛の営みを思い返して、ますます顔を赤らめたが、バスターの言葉がたまらなく嬉しかったことも事実だった。
「バスター……あたしもだよ。こんなに幸せな時間をすごせるなんて……思ってもいなかったけど……嬉しくてたまらないの……」
 レアナの言葉を受けたバスターは彼女の顔を見つめ返した。レアナも笑顔のままバスターの顔を見つめ返し、それが自然な行為であるように二人は再び唇を重ね、お互いの愛を求め合った。何も身に着けず、裸のまま固く抱き合い口づけを交わす二人の体と魂は、ほんの先刻に激しく愛し合ったときに勝るとも劣らず、強く結ばれ、完全に一つになっていた――。



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