[触れ合う温度(R-18版)]



「やっぱり部屋の中でも冷えるね」
「ああ、今はなんでも節約しないといけないしな」
 そう言ってバスターは手にしたマグカップの中のコーヒーをすすった。バスターとレアナはバスターの部屋で、並んでベッドに腰かけていた。二人ともパジャマ姿で、手にはそれぞれ、バスターはブラックコーヒー、レアナはココアで満たされたマグカップを持っていた。
 真空で極寒の宇宙空間に滞在している以上、TETRA内部の室温も放っておけば下がる一方であるため、もちろん艦内の室温を調整する装置は完備されていた。だが、今のTETRAの置かれた状況では、少しでもエネルギーを節約する必要があったため、TETRA艦内の室温は通常よりも低めに設定されていた。クルーが夜間帯に自室で眠るときには、眠りに就くまでの間は個々の部屋の室温を多少上げて快適な温度にまで上げることはテンガイによって許可されていたが、バスター達は自主的にそれも節制していたので、TETRA艦内はどこも最適温度よりも低めな室温であるのが現状であった。
「ま、仕方ねえさ。それに室温が低くても、暖を取る方法はあるしな」
「こんな風にあったかいものを飲んだりして?」
 レアナはそう言うと、フーフーと息を吹きかけて両手で持ったマグカップのココアを一口飲んだ。バスターも同じように片手のマグカップの中のコーヒーを飲んでいたが、マグカップの中身を一足早く飲み干すと、隣のレアナの肩に手を置いて自分のほうへ抱き寄せた。
「それもあるけどな。あと、こういう風にくっついていても、暖かいだろう?」
「バスターってば……」
 レアナは頬を染めながらも、マグカップのココアをまた一口飲んだ。そうやってレアナがゆっくりとココアを飲み干すのを見届けると、バスターはレアナの手から空のマグカップを受け取った。
「あったまったか?」
「うん。それに……バスターの言う通り、こうしてるとあったかいね……」
 レアナはバスターの体に自分から身を寄せ、そっと目を瞑った。バスターは自分とレアナの空のマグカップをサイドテーブルに置くと、両腕でレアナを抱きしめ、静かに唇を重ねた。突然のバスターの行為だったが、レアナは特に驚いた様子でもなく、それにもう毎夜のことでもあったので、全く抗わずにバスターの口づけを受け入れていた。バスターの唇からは微かに苦いコーヒーの味が感じられたが、彼との口づけは、レアナにとっては何よりも甘く上質な菓子のようだった。
 やがて、唇を重ねたままバスターはレアナをベッドに仰向けに横たわらせた。そして唇を離すと、ささやくようにレアナに確かめた。
「レアナ……いいな?」
 それももはや毎夜のこととなった儀式と言っても良かったが、いつも自分を気遣ってくれるバスターの優しさに、レアナは胸が熱くなるのを感じていた。腕を伸ばして細く白い指先でバスターの唇をなぞると、レアナは黙ったまま、こくりと頷いた。
 バスターは再びレアナに軽く口づけると、ついばむように唇を奪いながら、片手をレアナの頬に添え、もう片方の手で器用に彼女のパジャマのボタンを上から順に外していった。レアナの白い肌が徐々に露わになり、豊かな乳房は段々と開かれるパジャマの合わせからはちきれんばかりだった。そこから先は、バスターだけが知っているレアナの姿だった。バスターだけが全てを知っているレアナの美しい裸体が、彼の目に飛び込んできた――。

 全てが終わり、広くはない室内にバスターとレアナが求め合った熱が残響のように漂う中、二人が着ていたパジャマと下着はベッドの下に落ちており、ベッドのシーツも大きく乱れていた。何もかもが、二人がお互いを激しく求め合った名残を示していた。
 バスターはレアナを抱きしめて横たわっており、レアナもバスターの腕の中で彼のたくましい体に身を寄せていた。レアナを強く求めた時間を惜しむかのように、バスターは彼女に再度、けれど今度は深く長い口づけを与えた。レアナもそれに逆らうことなく、バスターにされるがままに、唇を奪われていた。
 バスターはレアナの唇を味わいながら、レアナの華奢でなめらかな体をなぞるように手を動かした。絹糸のような淡い色の髪も、その一本一本に指を絡ませて丁寧に梳いた。それはまるで、レアナの何もかもを、バスターが自身の男性的な無骨な手を通して感じ、もう一度愛そうとしているかのようだった。
 当然のことながら二人は共に未だに何も身にまとってはいなかったが、そのまま強く抱き合い、唇を重ねていた。それは単なる欲望からではなかった。お互いを心の底から想い合っているからこそ、少しでもずっと一つでありたいと願う純粋な想いからだった。
 レアナの体を心ゆくまで愛撫し終えると、バスターは唇を離し、レアナの体にブランケットをかけてやった。本来は白いレアナの肌は紅潮してほんのりとピンク色に染まっており、レアナ自身は体の力が抜けたかのようにうつ伏せになって寝そべっていたが、バスターのほうへ顔を向けると、仰向けになってブランケットの中から両腕を差し出し、潤んだ瞳で訴えるようにバスターに言葉をかけた。
「バスター……お願い……来て……」
 レアナのその懇願が、バスターの心と体のリミッターを一瞬で外していた。レアナの体に一旦はかけたブランケットを掴んで脇にのけると、レアナの腰を両手で掴んだ。
「分かってるさ……レアナ……」
 その言葉を口にした次の瞬間、いきり立ったバスターの男性としての分身が、溢れ出す蜜で濡れそぼったレアナの蜜口を、彼女の熱で熟れた体を貫いていた。バスターが体を動かすたびに、レアナは甘い声を漏らした。その声がますます、バスターの愛欲に火をつけた。
「ああ……ん! バスター……!」
「レアナ……! レアナ……!」
 それは先の結びつき以上に、熱と愛に満ちていた。二人は夢中でお互いの名を呼んでいた。
「う! くう……!」
 長い時間が経った後、バスターが頂点に達し、己の全てをレアナの中に吐き出すと、レアナはその胎内に熱く白いバスターの精の全てを受け止めた。
「あ……ああ……ああん!」
 同時にレアナも絶頂に達し、一瞬、ピンと体が硬直した直後に、全身から力が抜けていった。
「はあっ……はあっ……」
 バスターは乱れた呼吸を整えると、レアナの体を愛しげに抱きしめた。自分の想いの丈の全てをその細い身にいつも受け止めてくれるレアナが、バスターは愛しくてたまらなかった。
「バスター……熱いよ……」
 バスターがレアナの顔を覗きこむと、その額には汗の玉が幾つも浮かんでいた。バスター自身もその体は汗にまみれており、髪の毛を伝ってぼたりと汗の粒がシーツの上に落ちた。
「ああ……暖かいどころじゃねえな……」
 バスターがそう言ってレアナの額に張り付いた髪の毛を指で剥がすと、レアナもバスターの汗まみれの顔を撫でるように手を伸ばした。
「ちゃんと汗を拭かなきゃ……ね」
「ああ……そうだな……」
 だがバスターもレアナも、お互いから離れようとはしなかった。先ほど以上に乱れたシーツの上で抱き合うと、どちらともなく濃密な口づけを交わしていた。バスターとレアナ、心の底から愛し合う二人は共に生まれたままの姿だったが、抱き合って一つになり、直に感じるお互いの体温は、何よりも熱く、愛しかった。



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