[硝子に映りこむ愛]



 ガイと軽口を叩き合った後、バスターは自室へと戻った。部屋の天井の照明はついていなかったが、ベッド脇の照明だけはついており、そのベッドにはレアナがパイロットスーツのまま、突っ伏していた。
「どうしたんだよ、レアナ」
 レアナの様子を微笑ましく思いながらバスターが声をかけると、レアナは枕に顔をうずめたまま、ぼそっと答えた。
「だって……ガイってば、あんなにからかうんだもん……恥ずかしいよお……」
「まあ、確かにあれはちょっとエスカレートしすぎだったな。でも安心しろ、ちゃんと注意しておいたから」
「ほんとう……?」
「本当だとも。それとも俺の言うことが信じられないか?」
 バスターの言葉に、レアナはクスッと笑みを漏らした。それと同時に、首元に手を入れてドッグタグと一緒につけているガラス片のアクセサリーを取り出した。
「ガイにはあんな風にからかわれちゃったけど……あたしにとってはすごく大事なものだから……」
 レアナの言葉を受けて、バスターもまたジャケットの首元に手を突っ込み、レアナが身につけているそれと同じようにドッグタグと共にチェーンに通された丸みを帯びたガラス片を取り出した。
「……俺にとってもだ。さっき、お前がいなくなってからガイと話したんだが……俺達が今こうしてここにいられるのは、このお守りのおかげかもしれないな」
「……そうかもね、ううん、きっとそうだよ。バスターがあたしのことを大事に想ってくれるのと同じくらい、あたしだってバスターのことが大好きだもん。そんな想いがこのアクセサリーには込められているって……あたし思うの」
 自分が言おうとしていたことと全く同じことをレアナに先に言われたため、バスターは少し調子が狂ったが、それでも笑ってレアナに返答した。
「そうだな……きっとそうなんだろうな」
 そう言うと、バスターはレアナを抱き寄せて唇を重ねた。レアナもそれに抵抗することなく、二人はしばし、互いの唇の感触を味わい、呼吸を交わし合った。
 ようやくバスターがレアナの体を少し離すと、バスターは自分が着ていたジャケットを脱いでベッドの脇に放り投げた。そして間を置かず、レアナの着ているジャケットも脱がせると、同じようにベッド脇に放り投げた。レアナがジャケットの下に着ているアンダーウェアも脱がそうと、バスターは彼女の背中のファスナーに手をやり、ファスナーを下ろしてアンダーウェアを脱がし、タイツも引っ張るように脱がせた。
 もはやレアナが身に着けているものは首から下げているアクセサリー、そして胸と下腹部を覆う下着だけだったが、バスターはいったんレアナの体から手を離し、自身もアンダーウェアとズボンを脱ぎ、いち早く下着までも脱いでしまった。
 素裸になって再び露わな姿のレアナに近づくと、バスターはレアナのブラジャーのホックをパチリと外し、豊かな乳房を露わにした。そんな乳房を見てはもう我慢出来ないとばかりに、バスターはレアナの乳房を軽く噛み、乳首をチュッと吸い上げた。
「あ……ん……やだ……バスター……」
 レアナはか細く抗議の声をあげたが、バスターには全く無効果だった。それどころか、そのはかなげな声がいっそうバスターの中の愛欲を増幅させていた。
 二つの乳房を唇と舌先で味わい、首筋にも唇を這わせた後、バスターはレアナが唯一身に着けている下着をも、一気にはぎ取った。そして蜜口に指を入れると、そこにはもう大量の蜜が溢れていた。乳房や首筋などへの絶え間ない愛撫で、レアナの体は既にバスターを迎え入れる準備が出来てしまっていた。
「レアナ……いいな?」
 バスターの言葉に、顔を赤く染めたレアナがこくりと頷くと、バスターは一気に彼女の中に踏み込み、何度もその胎内を貫いた。
「ああん!……バスター……バスター……!」
 バスターが勢いをつけて彼女の中に踏み込むたび、レアナは女の喜びに満ちた声をあげ、バスターの名前を呼んだ。それはバスターも同じで、レアナの体の中でこれ以上ない快楽を味わいながら、彼女の名前を呼んでいた。
「レアナ……レアナ……!」
 長い時間、ふたりはそうして愛し合っていたが、とうとう共に絶頂に達した。バスターはレアナの胎の奥底に自身の想いの丈を吐き出し、レアナの体はそれをしっかりと受け止めた。
 レアナの体の上に覆い被さるようにバスターが倒れ込み、ゼイゼイと荒れた呼吸を整えているとき、不意にチャリンという微かな音が響いた。バスターは一瞬、いぶかしげな顔をしたが、すぐにドッグタグとあのガラス片のアクセサリーの音だと気づいた。
「バスター……どうしたの?」
 バスターの体の下ではレアナが不思議そうな顔をしていたが、その彼女の首にもドッグタグとガラス片とがぶら下がったままだった。
「お前もか……そういえばいつもはパジャマに着替えてるし、俺だってトレーニングのときは外していてそのままシャワーに直行してるもんな……気づかなかったぜ」
「え……ああ、このお守りのこと? そういえばそうだったね……なんだか……ちょっと恥ずかしいな」
「どうしてだ?」
 バスターが尋ねると、レアナは顔を赤くして小さな声でつぶやいた。
「だって……今夜はこのガラスに何もかも映っていたんだなって思ったら……なんだか……あっ……」
 レアナがそこまで言葉にすると、バスターは彼女の唇を塞いだ。先ほどにも負けないくらい深い口づけを交わした後、バスターは少し茶目っ気のある笑みを浮かべてレアナを見つめた。
「いいじゃねえか……何もかもこのガラスに映っていたって。俺達の想いがどれだけ強いかを見せてやれただろう?」
「バスターったら……」
 レアナもバスターに釣られて笑っていた。バスターもまたしばらく笑っていたが、不意にガラス片をドッグタグと共に通したチェーンごと外し、目の前のレアナの首からもチェーンごとドッグタグとガラス片を外した。
「バスター?……どうしたの?」
 思いもしなかったバスターの行動にレアナが問いかけたが、バスターは黙ったままレアナの体を抱き上げた。
「バ、バスター?」
「よく考えたら、俺達まだシャワーも浴びてなかったろう? 一緒に浴びようぜ」
「い、いっしょに? え、えっと……」
「なんだよ、一緒にシャワーを浴びるなんて、今までだって何度もあっただろう?」
「う、うん、そうなんだけど……どうしてお守りを外したの? ぬらしたくないから?」
 レアナが戸惑っていると、バスターはニヤリと少し意地悪そうに笑った。
「まあ、そうだな。シャワーを浴びるときくらいは外したっていいだろう? それに……」
 バスターの意見にレアナが同意しかけたとき、バスターはいきなり爆弾を投下してきた。
「身に着けたままでまた見られるのは恥ずかしいんだろう? シャワーを浴びるお前はいつも美味そうだからな。楽しみだぜ」
「バ、バスターってば……!」
 一緒にシャワーを浴びるという名目でバスターは再び自分を愛するつもりなのだとレアナは気づき、耳まで真っ赤になっていた。振り返ってみれば、二人でシャワーを浴びるときには、いつもバスターに体の隅々まで愛されてしまうこともレアナは思い出していた。だが、バスターに抱き上げられたまま、彼の首にしがみつくと、レアナはバスターの耳元でようやく聞こえるような小さな声でささやいた。
「……やさしく……してね?」
 バスターは言葉を返す代わりに、レアナの額に軽くキスをした。
 そのままバスターとレアナはシャワールームへと消えていった。熱いお湯が流れる水音がしばし聞こえてきたが、その水音が止まると、その代わりのように、バスターに愛されてレアナが我慢出来ずにこぼす甘い声と、バスターがささやく愛の言葉が響いてきた。
「あ……ああ……ん……バスター……ダメ……そんな……」
「本当に綺麗だ……こんなお前を目の前にして我慢しろなんて……それはないぜ?……レアナ……お前だけだ……愛してる……もっと俺を満たしてくれ……」
 シャワールームに入る前に外した二人のお守りはベッドの上に置かれていた。まるで今まさに愛し合っている最中のバスターとレアナと同じように、ベッド脇の照明に映し出されたお守り――二人の想いが込められたガラス片も寄り添いあっていた。



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