[愛しい結晶]



「あ……ん。はあっ……」
 薄暗い室内のベッドの上。そこにはレアナを組み敷いて後ろから愛するバスターの姿があった。部屋の中ではレアナの漏らす甘い声のほかに、淫らな水音とシーツの衣擦れの音が響いていた。
「バスター……あたし……もう……あっ!」
 バスターに腰を掴まれて執拗に愛されながらも、必死に両腕をついて姿勢を保っていたレアナだったが、とうとう腕の力が抜けてしまった。そのため、上半身が前へと倒れそうになったが、後ろから回されたバスターの腕がそれをくい止めた。
「あ……バスター……や! あん……」
 レアナは自分の体を支えるバスターのたくましい腕に安堵を覚えたが、次の瞬間、その大きな手が自分の豊満な胸を掴みこんだことに思わず声をあげた。
「や……バスター……ああん!」
 言葉でそう言っていてもレアナが本気で嫌がっている訳ではないことは分かり切っていたので、バスターは片方の腕でレアナの腰を掴み、もう片方の腕で胸を掴んで揉みしだきながら、体の中心ではレアナと繋がったまま、彼女を愛し続けた。
「レアナ……!」
「バス……ター……あん……もう……ダメ……!」
 バスターに全身を支配されたレアナは、その身も心も快楽の渦に飲み込まれていた。その快楽の中でレアナが昇り詰めた瞬間、バスターも共に昇り詰め、熱く白い精がレアナの奥底に放たれた。
「あん! バスター……!」
「レアナ……うう……くうっ!」
 己の精の全てを出し切ると、バスターは束の間、そのままの姿勢でレアナを後ろから抱いていたが、やがて、崩れ落ちるようにベッドの上に倒れ込んだ。二人は共にうつ伏せにベッドの上に横たわっていたが、そのうちにバスターが体を起こし、レアナの腕も掴んで、彼女を仰向けにした。
「バスター……」
 レアナは潤んだ瞳で自分の体の上のバスターの名前を呼んだ。その様が何者とも比べようもないほど愛らしく、バスターは無意識のうちにレアナの唇を唇で塞いでいた。
「ん……」
 長い間、二人はそうしていたが、ようやくバスターがレアナの唇を解放した。目を開けた二人はそのままお互いを見つめ合っていたが、レアナがそっとバスターの前髪に触り、弄ぶように軽く引っ張った。
「バスターってば……もう……」
 レアナの言葉にバスターはニッと笑い、レアナの耳元でささやいた。
「でも、イヤじゃなかっただろう?」
 そう言うと、バスターはレアナの片方の乳房をまたその手の中に収め、もう片方の乳房の先端をキュッと口に含んだ。
「あ、あん! イヤ……バスター……」
 レアナの懇願を無視し、指と舌で乳房を愛し尽くすと、バスターはまた悪戯っぽく笑った。
「イヤか? じゃあ、これで終わるか?」
「や……そん……な……バスターの……いじ……わる……」
 既に乳房への激しい愛撫のためにレアナの呼吸は絶え絶えになっていたが、それでも声を絞り出して、自分の体に再び熱を帯びさせておいて、それを中途半端で止めようとするバスターに抗議した。もちろん、バスターは途中で止める気などさらさらなかったし、レアナも今までの経験でバスターは軽口を叩いているだけだと分かっていたが、それでも彼女の中で頭をもたげはじめた愛欲は、レアナをいつもよりも大胆にさせていた。
「分かってるさ……俺だけでなく、お前の体も……また熱を持っちまったみたいだな」
 バスターはレアナの蜜口に指でそっと触れ、もうそこが十分なほど潤んで蜜が流れ出していることを確認した。再び猛り切った己自身を蜜口に近づけ、レアナの上半身を抱きかかえると、バスターは一気にレアナの体を貫いた。
「あ……あん! バスター!」
 レアナは自分の体を抱くバスターの体に必死でしがみつき、バスターの激しい体の動きに振り落とされまいとした。二人の体を脳天からつま先まで、信じられないほどの快楽が稲妻のように走っていた。バスターは夢中で体を動かし、レアナも正気がどこかへ飛んでいってしまいそうだった。
「レアナ……レアナ……!」
「バスター!……ああん!……バスター!」
「レアナ……うっ!」
 お互いの名前を何度も呼び合いながら、どれだけの時間が経った頃か、バスターは再びくぐもった声を漏らし、もう一度、彼の精がレアナの胎の中へと注がれた。同時にレアナの胎も大きく震え、二人は共に絶頂を迎えていた。
「はあっ……はあっ……」
 バスターはしばらくレアナの体の上に覆い被さったままだったが、呼吸を整えると身を起こし、レアナの体の横に仰向けで寝転んだ。レアナも荒い呼吸を続けていたが、それが落ち着くと、白い裸体を晒したまま、自分の隣に体を投げ出したバスターに身を寄せた。
「ねえ、バスター……」
 自分の腕にそれよりも一回り細い腕を絡めるレアナの問いかけに対し、バスターは彼女の髪の毛を指に絡めながら答えた。
「どうした?」
「あたしたちの赤ちゃんって……どんな子が産まれるのかな」
「……なっ!?」
 バスターは一瞬、驚いた顔をして声をあげたが、レアナは微笑んでバスターを見つめた。
「あたしは……どんな子でも産まれる子はバスターの赤ちゃんだから、きっとかわいいだろうけど……バスターみたいな赤毛だったり、紫色の瞳の子だったらもっとうれしいかな……」
 心の底から嬉しそうに話すレアナの表情に、バスターの表情も和らぎ、フッと優しい笑みを浮かべた。
「そうだな……俺もどんな子でも可愛いと思うな。なんたって、俺とお前の子なんだからな。けど俺は……お前のこの髪の色や青い瞳を継いだ子供もきっと可愛いと思うぜ?」
 バスターの返答に、レアナはクスッと笑い、それに釣られてバスターもククッと声を漏らして笑った。
「そうだね……いろんな子が産まれたらいいね……」
 レアナはバスターの首根っこに両腕を回し、バスターに抱きついた。レアナの豊かな乳房がバスターの胸に押しつけられ、その柔らかな感触をバスターは肌と肌とで直に感じていた。
「でも……こんなに毎日、バスターはあたしをすごく愛してくれるのに……どうして赤ちゃん、できないのかな……」
 レアナがもっともな疑問を率直に口に出し、バスターを見つめた。レアナの青い瞳で見つめられたバスターは少々戸惑いながらも、彼女の髪を撫でながら、自分の考えを口にした。
「多分……今、俺達が置かれている状況が状況だから……お前の体が自然と子供を宿すことを拒否しているのかもしれないな。でも……地球に降りられれば……きっと……」
「そっか……」
 バスターが口にした理由にレアナも納得したようで、よりいっそう、バスターに寄り添うように、彼の体に抱きつく力を込めた。
「地球に無事に降りられたら……あたし、たくさん赤ちゃんを産みたいな。また、にぎやかになるくらいに……」
「そうだな……そうなるといいな……けど、お前にばかり、無理させちまうな……」
 バスターがそう言うと、レアナはふるふると首を振り、バスターの唇にそっと唇で触れた。その唇を離すと、にっこりと笑顔で言った。
「そんなこと、心配しないで。あたしはバスターの赤ちゃんだったら、何人だってほしいもの……産みたいもの……だって……この世でいちばん大好きな人の赤ちゃんなんだもの……」
「レアナ……」
 バスターはレアナとしばし見つめ合った後、やはりレアナと同じように穏やかに笑った。
「俺もだ……この世界で何よりも愛してる女が俺の子を産んでくれるなんて……こんな嬉しいことはねえよ……」
「バスター……」
 レアナはバスターによりいっそう身を寄せて抱きつき、静かに目を閉じた。
「ありがとう……」
 バスターもそんなレアナの体を力一杯に抱きしめ、優しい口調で呟いた。
「俺の方こそだ……ありがとう、レアナ……」
 二人は強く抱き合ったままだったが、どちらともなく見つめ合うと、再度、唇を重ねた。魂まで混じり合うかのような、深い口づけだった。二人にとって今宵で何度目か分からない口づけだった。そのまま、また愛し合おうとする二人の姿が、薄暗い部屋の中にぼんやりと浮かび上がっていた。二人の激しく熱い愛を止めるものは、なんぴとたりとてなかった――。



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