[重ね合う愛の軌跡]



 バスターが自室へ戻ると、部屋の中はベッド脇のライトだけが灯っていた。その暖色でほのかな光の中、バスターはベッドに横になる人影を見つけた。彼以外でこの部屋のベッドに眠る者は一人しかいない――レアナだった。
 レアナは横を向いてすやすやと寝息を立てていた。その体には、バスタオルだけが巻かれていた。以前にバスターがからかい混じりにパジャマを着る必要などないと言ってから、レアナはいつからか、バスターに愛される前にシャワーを浴びた後、バスタオルを巻くとそのままの姿で、パジャマを着なくなった。
『パジャマ、着ないのか?』
『だって……バスターが着なくていいって言ったじゃない。それに……』
『それに?』
『バスターに……少しでも早く愛してもらいたいもの……』
 そのときのレアナの表情と言葉を思い出すだけで、バスターの中では彼女への愛おしさが沸いていた。バスターはベッドに近づき、身を屈めると、レアナの淡い色の髪の毛を撫でた。そして、寝息を立てるレアナの唇に唇を重ねた。
「ん……」
 レアナは身を動かし、ゆっくりと目を開いた。自分の唇がバスターによって塞がれていることに気づくとさあっと顔を赤くしたが、抵抗はしなかった。そのまま二人は唇を重ねていたが、ようやくバスターが身を起こして唇を離した。
「……眠かったか?」
 バスターが笑って優しくささやくと、レアナは顔を赤くしたまま、ふるふると頭を横に振った。
「……ううん。バスターがもどってくるまで起きてようと思ってたんだけど……いつにまにか寝ちゃったみたい。ごめんなさい……」
「謝る必要なんてねえよ。こんな船の中にずっといたって……一日の業務をこなせば疲れてるだろうしな」
「でも、それはバスターだって同じでしょ? なのに……ん……」
 もう一度レアナの唇を、だが今度は軽く塞ぐと、バスターは笑ったままレアナを見つめ返した。
「俺はお前とは基礎の体力から違うんだ。そんなこと気にするなよ」
 レアナは顔を赤くしたまま、こくりと頷くと、小さな声で呟いた。
「……うん」
 しばらくの間、二人は黙って見つめ合っていたが、レアナが身を起こそうとして体を動かした。そのとき、レアナの体に巻かれていたバスタオルがほどけて滑るように落ち、たわわな乳房がこぼれるように露わになった。
「あ……!」
 レアナは咄嗟に腕で胸を隠したが、それがバスターの中の欲望の引き金を引いた。バスターは着ていたトレーニングウェアを脱いで裸の上半身になると、レアナを組み敷くように、彼女の体に覆い被さった。
「バ……バスター?」
「なんだ?」
「き……筋トレしてきたんでしょ? シャ、シャワー……浴びないの?」
「さっきまで浴びようと思ってた。けど……どうせ汗だくになるんだから、後回しでもいいって思い直したんだ」
「そ、それって……でも……」
「いいだろう?」
 バスターはそう言いながら、下半身に履いていたボクサーパンツとアンダーウェアをまとめて脱ぎ、トレーニングウェア同様にベッドの横に投げ捨てた。そのまま自分の体の下に横たわるレアナの両腕を掴むと胸から離し、再び露わになった豊かな乳房に遠慮なくかぶりついた。
「あん……!」
 急に乳房を口で愛撫されたことでレアナは声をあげたが、バスターは構わず乳房にかぶりついたまま、舌を巧みに動かして口中の乳首を愛撫した。
「バスター……! ああん……!」
 レアナの腕から力が抜けるのを確認すると、バスターはレアナの両腕を解放した。そして自由になった自分の手でもう片方の乳房を掌中に収めると、舌でそうしているように、乳房を揉みながら指でピンク色の乳首を弄び始めた。
「バスター……!」
 レアナは自分の胸を指と舌で愛撫し続けるバスターの頭を両腕で抱き、赤い髪をぐしゃぐしゃに撫でた。バスターはそんなレアナが可愛くてたまらず、レアナの両の乳房とその頂の乳首をまんべんなく念入りに愛撫した。
「バスター……」
 レアナは既にぜいぜいと息を荒げていた。それほどバスターの乳房への愛撫はレアナにとって激しいものだった。だが、バスターはそれだけでは到底満足していなかった。バスターは仰向けのレアナの肩を掴むと、ひょいと彼女の体をひっくり返してうつ伏せにした。
「え……?」
「もっと別のいいことを……してやるよ」
 戸惑うレアナをよそに、バスターはレアナの背中に舌を這わせた。その感触は乳房に受けたものとはまた異なった、しかし充分に情欲を刺激するもので、レアナはまた声をあげた。
「や……! バス……ター……! ああん!」
 レアナの声を聞きながら、バスターは背中を愛撫する舌先を這わせたまま、レアナの背中を下へと降りていった。やがて、カーブを描いた背中ともっちりとした臀部との境界部、その中央部にバスターの舌がたどり着くと、バスターはその部分に口づけした。バスターが唇を白い肌にくっつけたまま強く吸った瞬間、レアナはびくりと体を動かした。
「バ、バスター! ああ……ん!」
 バスターが口づけしている場所は、レアナにとって乳房や背中以上に敏感な箇所だった。動物ならばちょうどしっぽがある場所だったが、その名残のために人間にとっても感覚が鋭敏になっているのかもしれなかった。バスターが唇で吸ったり舌先を這わせるたびに、レアナの体は無意識のうちに愛欲の歓喜に沸き、腰を艶めかしく動かした。
「バス……ター……」
 レアナは息をするのもやっとな状態だった。そんなレアナの肌からやっとバスターが顔を離すと、またレアナの体をひっくり返し、再度、仰向けにした。
「バスター……」
「感じたか? でも……まだまだだぜ?」
 バスターはそう言ってレアナの太股を掴んで広げると、既に蜜で溢れかえっている蜜口に顔をうずめ、蜜口の中を舌でかき回した。
「ああ……ダメ……!」
 レアナの両手はシーツを乱暴に握り、その口からは甘い声をあげ続けた。バスターに愛される喜びにレアナはすっかり溺れていた。昼間の子供っぽいレアナとは違う、バスターだけが夜に知る、愛される喜びを知り、その深い海に溺れた大人の女の顔だった。そんなレアナを愛するバスターも、レアナにだけ見せる、夜の男の顔になっていた。
 バスターが蜜口から顔を上げると、レアナはもう何も言えないほどだった。まるで激しい運動をした後のように、レアナはぐったりとし、体からは力が抜けてしまっていた。バスターはレアナを抱きしめ、熱く潤んだレアナの唇に口づけを落とすと、あの優しい笑顔でささやいた。
「……いいな?」
 レアナにはバスターのその言葉が意味することはもちろん分かっていた。それはレアナがバスターに抱かれるようになってから毎夜、数え切れないほど繰り返されてきたことなのだから。バスターの顔を両手で包み込むように触ると、レアナは小さく頷いた。
「……うん」
 レアナの同意を得たバスターは身を起こすと、彼女の両足を掴み上げた。そのまま両足を自分の肩の上に乗せると、バスターはレアナの太股を掴み、彼女の中にいきり立った己自身を勢いよく挿し込んだ。
「ああ……ん! バスター……!」
 バスターに見下ろされる形で愛されながら、レアナはまさに今、自分を愛してくれている誰よりも愛しい男性――バスターの名前を呼んだ。レアナのその呼びかけに、バスターもまた、彼女を全身で愛しながらレアナの名前を呼んだ。
「レアナ……! レアナ……!」
 レアナの体を貫く猛々しいバスターは血管を浮き上がらせてドクドクと脈打ち、猛ったバスターを自身の胎に収めたレアナにも、その生々しい脈動は胎壁越しに伝わっていた。いつも以上に熱く、そして硬く猛ったバスターの男としての証を自分の体の最も奥深くで感じながら、レアナはバスターの激しい体の動きに呼応して大きく声をあげていた。
 レアナの身も心も、バスターに激しく愛され続けることで、ひたすらに乱れ狂っていた。そんなレアナの様を目にしながら、彼女を絶え間なく愛し続けるバスターの情欲も膨れ上がり、バスターの身と心も、レアナと共に乱れていった。
「ああん! バスター!……あたし……もう……」
「もう?……どうしたんだ?」
「もう……おかしく……なっちゃいそう……」
「ああ……俺もだよ……このまま……二人で狂っちまうかもな……」
「バスター……あたしは……それで……も……」
「俺も……だ……くう! うう!」
 バスターは声を噛み殺し、体を一瞬、ブルッと震わせて硬直した。次の瞬間、レアナの胎の奥底にバスターの熱い精が一気に注ぎ込まれた。レアナの中で放たれたバスターの精の熱さと勢いに彼女の胎も大きく震え、未だ脈打つバスター自身にまとわりついてその滾った熱い塊を愛し尽くした。
「ああ……ん! バスター……!」
「レアナ……!」
 バスターは少しの間、レアナの中の余韻を味わうようにそのままの姿勢で大きく呼吸を繰り返していたが、やがて、レアナから身を離し、彼女の両足も肩から下ろすと、レアナのすぐ隣に身を横たえた。そして横向きになって荒い呼吸を続けるレアナを背中から抱きしめた。バスターの腕の中に収まったレアナは、いつもよりも小さく見えた。
「レアナ……」
 自分の名前を呼ばれたレアナは、バスターの腕の中で振り返って彼を見た。そこには、あんなにも激しくレアナを愛した男性と同一人物だとは思えないほど、優しい笑みを浮かべたバスターがいた。
「バスター……」
 バスターのほうを向いたレアナは、汗ですっかり濡れたバスターの赤い髪をそっと指で梳いた。バスターにはそんなレアナが愛おしく、唇を重ねて愛撫するかのように息を交わした。
「な?……シャワーを浴びても浴びなくても、一緒だっただろう?」
 バスターが悪戯っぽく笑うと、レアナは頬を朱に染めたものの、素直に頷いた。
「……うん」
 二人は長い間、そのまま抱き合っていたが、バスターが身を起こし、造作もなくレアナを両腕で抱き上げた。
「え……? バスター?……なにするの?」
「決まってるだろう。シャワーを浴びるんだよ」
「え……で、でも、それなら、一緒じゃなくても……」
「俺と一緒じゃイヤか?」
 バスターがまた少しだけ意地悪そうに笑って言うと、レアナはすっかり顔を赤くして首をぶるぶると振った。
「う、ううん……そんなこと……ないけど……」
「じゃあ決まりだな。早く浴びようぜ」
 レアナを抱き上げたバスターはシャワールームへと歩いていき、中に入ってレアナを降ろすと、くもりガラスの扉を閉めた。扉を背にしてバスターがレアナのほうへ向くと、レアナはバスターのたくましい胸に手を置いて顔を寄せ、細く白い裸の体をどこも隠すことなく、自分よりずっと背の高いバスターの鍛えられた体に密着させた。バスターもまた、そんなレアナの体に自然と両腕を回していた。
「バスター……」
「どうした?」
「あたし……いいのかな……」
「何がだ?」
「バスターと……この世でいちばん大事な人と……こんなにも愛し合える時間を重ねられるなんて……夢みたい……」
 バスターはレアナの背中に回した腕に力を込め、レアナを強く抱きしめていた。レアナの言葉がたまらなく嬉しく、レアナという存在がたまらなく愛しかった。腕の中のレアナを見つめ、バスターは笑顔で言葉を返した。
「俺もだよ……お前をこうして何度も抱いて愛せるなんて……これが夢なら覚めるなって何度も思うくらいだ……」
 そのまま二人は、この夜だけで何度目か分からない深い口づけを交わした。唇を重ねて抱き合った二人のシルエットは、くもりガラス越しには一つに見えた。二人は先刻に愛し合ったばかりだったが、互いの唇を求め合う二人の甘く切ない息づかいがこだまするこの狭い密室でも、間をおかずして、また二人の激しい愛が紡がれるだろう。小さな個室の中は、二人の愛の熱で満たされることだろう。この終わりの世界の夜に、バスターとレアナ、二人が愛し合うことを阻むものは、何も存在しないのだから――。



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