[刻まれし愛の印]



 TETRA内のバスターの部屋。ベッドサイドの柔らかな明かりだけがほんのりと灯るその部屋のベッドの上では、二つの人影が一つに重なってうごめいていた。
「レアナ……くう!」
「あ……ああん!」
 この夜だけで何度目か分からないほどの愛の絶頂を共に感じ、尽き果て、バスターとレアナはベッドに倒れ込んだ。しばらくの間、バスターは自分の体の下のレアナを抱きしめていたが、不意にレアナを抱いたまま、起き上がってベッド脇の壁にもたれかかった。
「どうしたの……?」
 バスターの行動に、彼の体に身を寄せるレアナは不思議そうな顔をして尋ねてきた。バスターは口の端を曲げて笑うと、レアナの髪を愛おしげに撫でた。
「いや……今日も何度か分からないくらい、お前と愛し合ったんだよなって……な」
「バ、バスターってば……!」
 バスターの返答にレアナは顔を赤く染めたが反論はせず、バスターにその身も任せたままだった。実際、今夜だけで何度、絶頂に達したかは、バスターもレアナも覚えていなかった。少なくとも片手、いや、両手の指を使ってしまうほどの回数であったことは間違いない。それほどまでにバスターはレアナを求め、レアナもそんなバスターの想いに素直に応えていた。
「夜のバスターは……本当にエッチなんだから……」
「でも、お前も気持ち良かっただろう?……今夜も可愛かったぜ」
「バ、バスター! そんな……あ……」
「どうした?」
 レアナは突然黙りこんだが、体をびくっと震わせると、片手を恐る恐る腹部に当てていた。
「レアナ?……どうしたんだ?」
「な、なんでもないの……」
 そんなレアナの顔を見やり、バスターは真剣な顔でレアナに問い続けた。
「なんでもない顔じゃないだろう。具合でも悪くなったのか?」
「ち、ちがうの……あ……あ……」
 レアナは両手で腹部を押さえて前かがみになった。今にも泣き出しそうな顔をバスターに見せると、小さな声で呟いた。
「こぼれて……きちゃったの……」
「こぼれた? 何が……」
「バスターの……熱くて……白いの……」
「俺の? 熱くて白い?……あ、ああ……そういうことか……」
 バスターはようやく、レアナの身に起きたことに気がついた。レアナの体の中に何度も放ったバスターの精が多すぎて、レアナの胎に収まりきらず、こぼれ出てしまっていたのだ。レアナは変わらず泣きそうな顔をしながら、その顔にはバスターに対してすまなそうな表情も浮かんでいた。
「バスター……ごめんなさい。せっかく、バスターがあたしの体に残してくれた、愛してくれたしるしだったのに……」
 そのレアナの表情があまりに愛しく、バスターはあやうく理性を失いかけたが、かろうじて平静を保ってレアナを気遣った。
「そ、そんなこと、俺に謝る必要ねえよ。むしろ謝るべきなのは俺のほうなんだし。それに……今までだって、こんなことはあったんだろう?」
 バスターの問いかけに、レアナはこくりと頷いた。
「うん……何度もあったの。でも、シャワーで洗い流すたびに、バスターにごめんなさいって思ってたの……」
 とうとう涙がこぼれ落ち、レアナは両手で目をこすりながら泣き出した。そんなレアナを、バスターは優しく抱きしめていた。
「お前が俺のあのたぎりをそこまで大切に思ってくれているなんて……嬉しいよ。でも、お前の体の中からこぼれ落ちる俺の……その、精液を洗い流すことに、お前が謝る必要なんてないんだからな。お前だって、そのままじゃ気持ち悪いだろう?」
「バスター……」
「だから……さっさとシャワーで洗い流してこいよ。俺も付き合うからさ」
 バスターはそう言うとレアナを抱き上げてベッドから降り、各個室に備え付けのシャワールームの中に入っていった。シャワールームの中でレアナを降ろして立たせると、バスターはシャワールームの扉をしっかりと閉めた。
「あの、バスター……洗い流すのは……自分でも……できるから……」
「けど、泣き出すほど俺にすまないって思ってくれたんだろう? じゃあ……お前にそんな思いをさせちまった張本人の俺が……今日は綺麗にしてやるよ」
 バスターはそう言うとシャワーを壁のフックから取り外し、コックをひねって湯の勢いを強めた。レアナは困惑を顔に浮かべながら狭いシャワールームの中で壁を背に立っており、蜜口からこぼれ落ちた白い液体――バスターの精が太腿にまでまとわりついていた。そんなレアナの前にバスターは片膝をついてしゃがむと、強い水流を蜜口に当てると同時に、自分の大きな手の指を蜜口に侵入させていた。
「あ……! バスター……!」
 突然の愛撫にレアナは倒れかけたが、両手を後ろの壁について体を支えることで転倒は免れた。だが、バスターの指とシャワーの水流とに二重に愛撫され、レアナは絶え絶えに声をあげていた。
「バ……スター……そんなに……中まで……」
「だって、念入りに洗わないとな?」
 バスターは悪戯っぽく笑い、レアナの懇願を軽くいなした。そんなバスターをずるいと思いながらも、彼を愛しているレアナは、バスターにされるがままになっていた。
 ようやくバスターは蜜口から指とシャワーを離し、立ち上がってシャワーをフックに戻した。湯気が立ちこめる密室の中で、バスターは腕を伸ばしてレアナを腕の中に収めると、強く抱きしめてお互いの体を密着させた。単にレアナより背が高いだけでなく、がっしりとたくましいバスターの体に抱かれて彼の体温に包まれながら、レアナはバスターはほっそりとした女性の自分とは全く違う、男性という生命体なのだと改めてその身で感じていた。
「バスター……」
「ダメだな、俺って……」
「え?」
 レアナがバスターを見上げると、バスターは自分に呆れたように苦笑していた。
「さっきまで散々お前を愛したはずなのに、またお前を抱きたくなっちまったんだ……」
 レアナが恐る恐る自分の体と密着するバスターの下腹部に目をやると、そこには反り返るほどにいきり立ったバスターの男の証があった。レアナはさっと視線を逸らしたが、その鼓動は強く速くなっていた。
「レアナ……いいか?」
 バスターは一転して真剣な顔になると、レアナに最終確認を求めてきた。レアナが嫌だと言えば、バスターは強要はしないだろう。だが、レアナはバスターに愛されることを嫌だとは一度も感じたことはなかったし、彼に愛されることはレアナにとって至上の喜びだった。答えは最初から決まっていた。
「うん……でも……」
「でも?」
「たくさん愛して……ね?」
「ああ、分かってるさ」
 バスターはそう言うと、腕の中のレアナをくるりと動かし、後ろから彼女を抱きしめる形となった。何をするつもりなのかとレアナが考える暇もなく、後ろから伸びてきたバスターの片手が、その片手に収まりきらないほどの大きさのレアナの乳房を揉みしだいた。同時にもう片方の手は先ほど洗ったばかりの蜜口に伸び、長く男性的な指がその中をかき回した。加えて、首すじには何度も口づけを落としていた。
「ああ……ん! バス……ター……!」
 レアナが想像していた以上に激しい愛撫が重ねて行われたため、レアナの体は愛欲の快感にたやすく支配され、その体からはみるみるうちに力が抜けていた。
「バスター……あたし……もう……ダメ……」
 バスターはレアナの言葉に愛撫する手を止めると、彼女の体を自分のほうへ向き直させ、抱きしめて深く唇を重ねた。
「もう体の力が抜けちまったか?」
 唇を離したバスターの問いに、彼に抱かれたままのレアナは申し訳なさそうに頷いた。
「うん……もう……」
 レアナはそれだけ言うとバスターの体に寄りかかったが、レアナはもはや立っていることさえ出来なかった。そんなレアナの様子に、バスターは彼女をシャワールームの床に座らせた。レアナはぐったりとなり、足を崩してぺたんと床に座り込んだ。
「ごめんなさい、バスター……あたし、もう、へとへとで……」
「何度も言ってるだろう? こういうときにお前が謝る必要はないって。いっつも俺が……お前を求めすぎちまうからなんだしな」
 そうやってレアナを気遣いながら、濡れた床に座り込むレアナの正面にバスターはかがみ込んだ。バスターは何をする気なのだろうとレアナが思った瞬間、バスターはレアナの両の太腿を持ち上げて、その下にたくましい腕を通すと、レアナの引き締まってはいるがもっちりとした臀部を掴み、そのままレアナを体ごと持ち上げ、立ち上がった。
「バ……バスター!?」
 バスターの思いも寄らなかった行動にレアナは仰天したが、バスターは笑って返した。
「大丈夫だ……これならお前が立てなくても済むしな」
「で、でも……こんな格好、あたし……」
「ここには俺とお前しかいないんだ。別に構わないだろう? それに、今のお前も……特にその表情……とびっきり、可愛いぜ?」
 バスターの甘い言葉にレアナはすっかり顔を赤くしたが、自分の今現在の体位については、もうそれ以上は触れてこなかった。バスターはそんなレアナの体を更に持ち上げたが、二人の目線が同じ高さになった時、バスターはゆっくりとレアナの体を降ろし始めた。
「バスター……? あ……!」
 レアナは自分の蜜口に熱く大きな塊が入り込もうとしている感覚を覚えた。それはバスターの猛り切った分身に他ならなかった。
「あ……ああん! バスター……!」
 レアナの蜜口はゆっくりと、だがずぶずぶと猛ったバスターを飲み込んでいき、間もなく、いきり立ったバスターは全てレアナの中に収まった。
「収まった……な。じゃあ……始めるぞ」
 バスターはレアナを持ち上げると、勢いよくレアナの体を再び降ろした。猛ったバスターとレアナの胎が緩急をつけてお互いを刺激しあい、バスターもレアナも全身を電撃が走ったような強い快楽に襲われていた。
「ああ……ん! バス……ター!」
「レアナ……!」
 もう一度バスターはレアナの体を持ち上げ、降ろした。再び、あの愛の快楽が二人を襲った。バスターは愛し合う行為を何度も繰り返し、レアナは必死でバスターの鍛えられた体にしがみついていた。
「バス……ター! いつも……より……ああん!」
「いつもより……なんだって?」
 バスターが少し意地悪そうに笑って尋ねると、レアナは息を荒げ、途切れ途切れの言葉で答えた。
「いつも……より……バスターが……深いところまで……あたしの……中に……」
「イヤか?」
「そんなこと……言わせないで。イヤだなんて……そんなことあるわけ……ないじゃない。バスターの……いじわる……」
「じゃあ……もっと気持ちよくなろうぜ?」
 そう言ってバスターはレアナと愛し合う行為を再開した。激しい快楽がバスターとレアナの体を走り、二人は夢中で相手の名を呼んだ。
「レアナ……! レアナ……!」
「バスター!……ああん!……バスター!」
 レアナをその腕の中に収めたバスターも、バスターの腕の中で彼の胸にしがみつくレアナも、狂おしいほどの愛欲に身も心も支配されていた。加えてそれ以上に、バスターがレアナを、レアナがバスターを求める純粋で熱烈な愛も、確かに存在していた。
「レアナ……う!……く!」
「バス……ター!」
 いきり立ったバスターがレアナにも分かるほどにいっそう硬くなり、熱く白い精――バスターのたぎりがレアナの中にほとばしった。レアナの胎はその精の刺激に呼応し、体の中のバスターを強く締め付けて愛した。それが約束であるかのように、バスターとレアナは常に共に絶頂を迎えていた。絶頂の波が引き、荒ぶっていた呼吸も整った頃、バスターは自分の腕で持ち上げているままのレアナの耳元で囁いた。
「レアナ……最高だったぜ……」
 バスターの言葉に、レアナはまた顔を赤らめて、恥じらいから、ひどく小さな声で返した。
「そんな……はずかしいじゃない……そんなこと言ったら……バスターも……すごかった……よ……?」
 バスターとレアナはしばし見つめ合っていたが、やがて、バスターはレアナを抱きしめたまま、床に腰を降ろした。レアナとは繋がったままだったので、バスターはあぐらをかき、その上にレアナを座らせた。さすがにバスターもレアナを長時間抱き上げていたことで疲れたらしく、すぐ後ろのシャワールームの壁にもたれかかっていた。
 そんなバスターの鍛えられた筋肉そのものである彼の胸にその華奢な身を寄せたまま、レアナは小さな声で呟いた。
「バスター……い……て……」
「え? どうした?」
「しばらく……このままで……いて……。バスターが……あたしの中に出してくれた……熱い想い……今度は……こぼしたくないの……」
「レアナ……」
「おねがい……ん……」
 バスターはレアナの唇を自身の唇で塞いでいた。レアナの唇は熱病に罹ったかのように熱く、色っぽく潤んでいた。
「レアナ……」
 しばらくしてレアナの唇を解放すると、バスターはレアナを真正面から見つめた。レアナは熱い唇だけでなく、その青い瞳も潤ませており、たまらなく情欲に満ちていた。
「ありがとう……そんなにも……俺がお前の中に吐き出した俺のたぎりを大事にしてくれて……」
「だって……あたしを愛してくれたしるしだし……バスターがあたしのことを想ってくれているって大切な証だもの……だからちゃんと……受け入れてあげたいもの……」
「レアナ……!」
 レアナの言葉が堪え切れないほど嬉しいと共に愛しく、バスターはレアナを力の限り抱きしめた。それからもう一度、二人は唇を重ねた。唇を重ねているだけでなく、深く繋がったままでいることで、バスターとレアナは目の前の愛する伴侶への激しい愛を自覚し、交し合っていた。
 交し合う愛の激しさのためか、一度は収まったはずのレアナの中のバスターはまた猛ろうとしており、それはバスター本人だけでなくレアナにも感じられた。だが、もう一度愛し合うことをバスターが望んでも、レアナは何も抵抗などしないだろう。むしろ、その露わな身の全てをバスターに委ねるだろう。
 二人の愛の深さも激しさも、やすやすと推し測ることなど他者には到底、出来そうもなかった。湯気が立ちこもる熱い密室の中は、バスターとレアナがお互いを求め合う愛欲の熱によって、いっそうその温度が上がっていると錯覚したとしてもおかしくなかった。それほどまでに、バスターとレアナの身も心も繋ぐ愛は熱く湧き上がっていたのだから。



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