[求め合う形]



 バスターが目を覚ますと、隣に眠っていたはずのレアナの姿がなかった。ベッド脇に備え付けられた時計を見ると連邦標準時で午前5時よりも少し前で、起き出すにはまだ早い時間だった。
「自分の部屋にでも行ったのか……?」
 バスターは最初はそう思ったが、シャワールームのほうから小さなザーッという水音が聞こえてきた。
「ああ、シャワーか」
 バスターは起き上がると、シャワールームのくもりガラス製のドアをノックした。
「レアナ? いるんだろう?」
「あ、バスター?」
 バスターの呼びかけに返事が返ってくると同時に、水音が止み、くもりガラスのドアを半分ほど開けてレアナが顔を覗かせた。
「もしかしてシャワーの音が大きかった? ごめんね」
「いや、別にそんなわけじゃねえから、お前が謝らなくてもいいさ。それより今日はずいぶん早起きだな。いつもは俺のほうが起きるのが先なのにな」
「えっと……うん、そうだね。でも、さっき起きたら目が冴えちゃって。だったら今の内にシャワーを浴びておこうかなって思ったの」
 レアナは髪の毛から滴をしたたらせ、何も身に着けていない体の露わになったままの胸を両手で隠していた。薄暗い部屋の中ではなく、明るいシャワールームの光の中でバスターに真正面から裸を見られることに恥じらいを感じているのは明らかだった。
 その様に、バスターの中の男としての情欲がむくりと頭を持ち上げた。バスターは唯一身に着けていたパジャマのズボンをその場で脱ぐと、シャワールームのドアを大きく開けた。そしてレアナをそのままシャワールームの中に戻すと、自分もシャワールームに入り、後ろ手でドアを閉めた。シャワールームの中は決して広くはなかったが、二人の人間が入れるほどの余裕はあった。
「バ……バスター!? な、なにするの……?」
「俺もシャワーを浴びたくなったんだ」
 バスターは悪戯めいた笑顔と口調でさらっとレアナの疑問に答えた。
「じゃ、じゃあ、あたしはもう浴びたし……」
「いいだろう? 一緒に浴びたって? それに、もう一度シャワーを浴びたくなると思うぜ?」
「で、でも……!」
 そう言うとレアナは顔を赤くして後ろを向いてしまった。バスターはレアナの華奢な後ろ姿に近づくと、背中から胸へと腕を回した。濡れたままの乳房を両手で包むと強く揉みしだき、ピンク色の乳首を指先でつまむと、その先端を突いて弄んだ。
「や……! バスター……!」
 レアナはバスターの手に自分の手を重ねて胸から離そうとしたが、レアナとは比較にならないバスターの筋力の前では無力だったし、そもそも愛撫を受けていることで力が手に込められなかった。バスターは更にレアナのうなじに口づけし、細く白い首筋に唇と舌を滑らせた。
「あ……ああ……バスター……ダメ……」
 いつもは向かい合っていた愛し合う行為が、今はお互いの顔が見えない体勢で――後ろからバスターがレアナを拘束する形で――行われている。そこにはどこか背徳感めいたものをバスターは感じていた。
 レアナもバスターの行為に最初は戸惑っていたものの、バスターの後ろからの絶え間ない愛撫で、レアナの理性はだいぶん身を潜め始めていた。それはバスターも同様だった。レアナを背後から愛する初めての経験に身も心も興奮しきっており、下腹部の己自身も既に充分なほどに猛っていた。
 指を後ろからレアナの蜜口に差し込むと、蜜口は既に蜜をこぼし始めており、楽に指を深くまで入れることが出来た。入れる指の数を増やし、蜜口の中でくちゅくちゅと音を立てて指先を激しく動かすと、レアナの体は無意識に反応して艶めかしく腰をくねらせ、レアナはこれまで以上に色めいた声を漏らした。
「ああ……ん! バスター……もう……ゆるして……」
 バスターが指を蜜口から抜くと、流れ出した蜜がレアナの足の谷間からしたたり落ち、レアナの足にも絡みついた。その様に刺激され、バスターの情欲も、もはや限界に達していた。
「レアナ……!」
 レアナは全身の力が半ば抜けているような状態で、前かがみになってシャワールームの壁に手をついてかろうじて立っていた。そのレアナの腰をバスターはしっかりと掴むと、反り返るように猛りきった己自身を蜜口の中に一気に挿し入れた。
「……! バス……ター!」
 何の予告もなしにバスターが突然、自分の中に入ってきたことで、レアナの体に残っていたわずかな力も尽きてしまった。そのまま倒れ込みそうになったところをバスターがレアナの腰を掴み直して細い体を支え、両手を正面の壁につかせ直した。バスターが激しく攻めるたびにレアナの体は大きく揺れ、その動きに伴って、露わなままの豊満な乳房も前後左右に淫らに揺れた。レアナの足はガクガクと震え、バスターに腰を掴まれていることと壁に手をつくこととで立っているのがやっとだった。
 それでもレアナはバスターから逃れようとはしなかったし、バスターもレアナから体を離そうなどとは微塵も思わなかった。二人の体と心は肉体の中心で結ばれていることでもたらされる喜びに打ち震えていたし、それ以上にお互いの存在と快楽を直に感じようと、繋がったまま一つであり続けようとした。
「ああ……ああ……バスター! バスター!」
 バスターに自分の最も奥深い場所を攻められるたびに、レアナは耐え切れず甘い声でバスターの名を呼び続けていた。いつもとは違う愛し方で繋がって体を大きく動かすバスターもまた、新たに知った快楽の波に溺れ、猛って蜜口の奥を深く攻める己自身を一際熱く包み込むレアナの名前を呼び返した。
「レアナ……! レアナ……!」
 やがて、遂に歓喜の頂点が二人を襲った。バスターは熱く白い精を勢いよく放ち、レアナはそのバスターの愛の証の全てを体の奥深くに受け入れた。それだけでは終わらず、バスターの精のほとばしりに呼応したレアナの胎がバスターにきつくまとわりつき、バスターとレアナは更に大きな絶頂を感じた。レアナはもはや自力で立っていることが出来ず、バスターも繋がったまま身をかがめて後ろからレアナの上半身を抱きしめ、くぐもった声を漏らした。レアナもまた、自分の体を襲う欲望の大きな刺激に堪え切れず、甘く切ない声を上げた。
「う!……くう……!」
「ああ……あ……ああん!」
 二人は共にぐったりし、満足しきったバスターがようやく己自身をレアナの中から引き抜くと、レアナはシャワールームの床にぺたんと足を崩して座り込んだ。バスターもまた同じようにしゃがみこんだが、レアナの体は背後から抱きしめたままだった。
「ずる……い……よ」
「え?」
「ずるいよ、バスター……こんなところで、いきなり……こんなことするなんて……」
「悪かった……けど、どうしても我慢出来なかったんだ」
「……ううん。ずるいって思ったけど、あたし、怒ってるわけじゃないから……びっくりしただけだから……」
 レアナはそう言うと、自分を背中から抱きしめるバスターのほうを向いた。
「あたし……きっと、いつもとはちがう顔してたんだろうね。だって……こんなこと、初めてだったんだもの……」
「そんなにいつもと違ったか?」
「うん……えっと、その、バスターが……あ、あたしの……ときとか……と、とにかく、すごくおどろいちゃったの……!」
 ところどころ聞き取れないほどの小声でそれだけ言うとレアナはまた正面を向き直したが、バスターが後ろから覗き込むと、耳たぶまでが赤くなっていることが分かった。そんなレアナがいつも以上に愛しく、バスターはレアナを抱く腕に力を込めた。
「さて……浴びるか」
 しばしの時間が経った後、バスターはおもむろに切り出した。バスターの言葉の意味が分からなかったレアナはバスターのほうを向き、きょとんとした顔で問いかけた。
「浴びる……って?」
「決まってるだろう、シャワーだよ」
 そう言う間にもバスターは立ち上がってシャワーのコックを動かし、同時に熱い湯がシャワーヘッドから二人の頭上に降り注いだ。
「あ……そっか……で、でも、二人いっしょじゃなくても……」
「いいだろう、今更。俺が洗ってやるしな」
 バスターはニヤッと笑ってレアナの腕を引っ張って降り注ぐ湯の下に立たせると、背後から腕を伸ばしてレアナの乳房を手の平で包み込んで揉み、くびれた腰を撫で、蜜口から流れ出して足にまとわりついていた蜜を指で拭い取って洗い流した。
「バ……バスター……!」
「どうした?」
 バスターの思いもよらぬ行為のためにレアナは呼吸を荒げ、赤い顔で抗議したものの、バスターは少し意地悪そうに笑って彼女をいなした。バスターはシャワーを止めるとシャワールームのドアを開け、ドアの横の作り付けの小さな棚に置いてあったバスタオルを手に取り、荒い呼吸を続けるレアナの体をそれで包み込んだ。レアナは顔を赤くしてうつむいままだったが、やっと呼吸が落ち着くと、ぽつりと呟くように言った。
「バスターってば……もう、いつもそうだけど……こういうときは別人みたいになっちゃうんだから……」
 別のバスタオルで自分の頭と体を拭いていたバスターはその言葉を聞き逃さず、笑ってレアナの顔を覗き込んだ。
「今頃知ったのか? 俺はお前相手ならいつだって狼になるんだぜ? それに……」
 そこまで言うとバスターは、レアナの耳元で続く言葉をささやいた。
「ベッドの上じゃない場所でも、なかなかのものだっただろう?」
 レアナは一瞬ぽかんとした後、バスターの言葉の意味に気づき、これ以上はないと思えるほど顔を赤く染めた。
「……バカ!」
 そう言いながらも、レアナはバスターの裸の体にもたれかかり、鍛えられたたくましい胸に手を置いた。体に巻いていたバスタオルが床に落ち、レアナの裸体は再び露わになったが、レアナはそれには構わずにバスターに体を密着させた。バスターもそんなレアナの体に腕を回し、二人は裸のまま、湯気が立ち昇るシャワールームの中で寄り添い合った。そしてお互いの顔を見つめ合うと、何も言わずに瞳を閉じて深く唇を重ねた。
 バスターとレアナ、お互いを強く求め、今も生まれたままの姿で抱き合い、愛し合う二人を邪魔するものは何もなかった。直に触れ合った肌と肌はどちらも熱く、心臓の鼓動はリズミカルに、だが激しく打ち合っていた――。



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