[混じり合う熱]



「これがショウチュウなんだ……」
 レアナは両手で包み込むように持ったマグカップの中身をのぞき込み、その香りを吸い込んだ。マグカップの中では、お湯で割った芋焼酎がほかほかと湯気を立てていた。
「そのままでもいけるけど、お前は酒なんて飲み慣れてないからな。艦長が言ったようにお湯割りのほうがいいだろう」
 レアナを背中から抱きながら、バスターが片手に持ったマグカップにも同じように芋焼酎のお湯割りが注がれていた。好奇心満々でマグカップの中身を見つめるレアナの様子がいかにも純粋無垢な彼女らしく、バスターは温かいまなざしを彼女に向けていた。
 やがて、レアナがそっとマグカップを近づけ、こくりと一口だけ中身を飲んだ。レアナは目をぱちぱちとさせたが、すぐに笑顔になり、バスターのほうを振り返った。
「……おいしい!」
「そうか、なら良かったぜ」
 バスターも笑って返事を返し、自分も手に持ったマグカップを傾けた。ゆうべ味わったストレートの芋焼酎とはまた違った、柔らかな温かな甘みが口の中に広がった。
 二人はしばらくの間、無言でお湯割りを味わった。バスターは一足先に飲み終えると、自分の腕の中のレアナの様子をそっとのぞき込んだ。レアナもほとんど飲み終えようとしていたが、後ろから見えるその頬をよく見ると、ほんのりと赤く染まっていることが分かった。
「レアナ? 大丈夫か?」
 心配になったバスターが声をかけると、レアナはくるりとバスターのほうへ顔を向けた。頬だけでなく顔全体がうっすら赤く染まり、瞳も潤んでいた。
「あ、バスター……うん、だいじょうぶだよ」
「本当かよ……」
「だいじょうぶだってば。ただ……」
 レアナはそう言うとマグカップにわずかに残っていたお湯割りを飲み干した。そして顔を上げると、潤んだ瞳でバスターを見つめた。
「……あついの。体が……」
 そのレアナの様は、バスターにはたまらなく官能的だった。バスターは不意打ちを食らったような気分になったが、自制心を総動員し、自身の欲望を必死で抑えつけた。
「レ、レアナ、ちょっと横になったほうがいいぞ」
 そう言ってレアナの手から空のマグカップを取り上げると、自分のマグカップと共にベッド脇のミニテーブルに置いた。
 バスターが改めてレアナのほうを見ると、ベッドに横たわったレアナは先程と変わらぬ様だったが、バスターが自分を見ていることに気づくと、上半身を起こし、普段の彼女からは考えられないほど扇情的な表情でバスターを見つめた。
「バスター……」
 バスターの自制心はもはや限界だった。レアナを求めるバスターの激しい欲望をかろうじて引き止めていた細い糸が、バスターの中でぷつりと音を立てて切れた。
 次の瞬間、バスターはレアナの腕を掴み、引っ張ると、彼女の体をしっかりと受け止めた。そして顔に手をやると、貪るように唇を奪った。
「ん……う……ん……」
 レアナが微かな声を漏らしたが、バスターは構わなかった。舌を絡ませると、レアナが飲んだお湯割りの味と匂いがバスターの口内にも伝わってきた。同じ酒を飲んだはずなのに、レアナの唇ごしに感じられるそれは、より美味であるようにバスターには思えた。
 唇を重ねながら、バスターは片手でレアナのパジャマのボタンを次々と、慣れた手つきで外していた。レアナはパジャマの下には下着を身につけていなかったので、たちまち白い裸体が露わになった。ようやく唇を解放したバスターの目には、その裸体もいつもよりもうっすらとピンク色に染まっているように見えた。
「レアナ……!」
 バスターはそのまま、レアナの乳房にかぶりつくように顔を寄せた。口中にはとても入りきらない大きさの乳房だったが、バスターは巧みに舌を動かし、いつも以上に味わおうとした。乳首を舌先で弄ぶとその先端はツンと固くなり、優しく噛むとレアナは体全体をこわばらせて声を上げた。
「いや!……バスター!」
 レアナがそう言ってもそれが彼女の本心ではないことは分かっていたので、バスターは止めなかった。更にレアナのパジャマのズボンと下着まで脱がし、彼女が身に着けていたものを全て取り去っていた。片方の乳房を味わい尽くすともう片方の乳房を口に含み、舌先を動かし、そのたびにレアナは声を上げ続けた。絶え間なく与えられる愛撫による快楽の波で、次第にその声は絶え絶えになっていた。
「や……バス……ター」
「やめるか? もっとも、俺はやめる気なんてないけどな」
 バスターが口元を曲げて笑い、少し意地悪くそう言うと、レアナは赤く染まった目元を開け、うつろな目でバスターを見つめ、泣きそうな声で訴えた。
「もう……! いじ……わる……!」
 乳房以外にも、細い首筋やくびれた腰を指と舌で愛撫し尽くすと、バスターはレアナの足の付け根に指を差し込んだ。レアナは体をびくっと震わせたが、抵抗する様子はまったくなかったし、抵抗しようにもそんな力は深い愛撫の連続でとうに失われていた。バスターが差し込んだ指を動かすと、くちゅりと生めかしい水音が立った。
「レアナ……」
 バスターは指を離し、自分のパジャマを手早く脱いだ。レアナと同じく何も身に着けていない姿になると、もう一度レアナの足の付け根、蜜口に、今度は舌を差し入れた。
「あ……あん!」
 くちゅくちゅと先程以上に艶めいた水音とレアナが耐えきれず喘ぐ声とが響き、溢れ出した蜜がシーツに滴り落ちた。もうこれ以上の愛撫の必要はないと判断すると、バスターは顔を離し、猛った己自身を蜜口に近づけた。
「レアナ……いいな?」
 バスターがレアナの顔に顔を近づけて囁くと、レアナは閉じていた目をそっと開けた。そのままバスターの首に腕を回すと、バスターの唇に自身の唇を重ねた。それがバスターに引き金を引かせるサインだった。
 バスターは蜜口に己自身をあてがうと、一気にレアナの中に踏み込んだ。その勢いにレアナは一瞬、顔をわずかに歪めたが、バスターの首に回した腕に力を込めた。
 バスターは何度も何度も激しく体を動かした。いつも以上にレアナの胎壁が猛ったバスターを熱く包み込む感覚が強く、理性などどこかに吹き飛びかけていた。
 それはレアナも同じだった。バスターが彼女の体を貫くたびにどうしようもない快楽が体の中心から広がって体全体を頭からつま先まで襲い、体だけでなく心もどうにかなってしまいそうだった。それでも必死にバスターにしがみつき、ひたすら名前を呼んでいた。
「バスター!……ああ……ん! バスター!」
「レアナ!……レアナ!」
 自分の名を呼ぶレアナの声に応えるように、バスターも彼女の名を呼んでいた。二人の声は切なく、甘い響きに満ちていた。
 やがて、バスターが身も心も限界点に達し、レアナの中の彼自身がびくりと一際固くなって震えた。それに呼応するように、レアナも絶頂を迎えた。猛ったバスター自身にまとわりつく熱を帯びたレアナの胎もまた大きく震え、バスターに至上の快楽を与えた。
「あ!……く……う!」
「あ……ああん!」
 快楽の頂点の刺激と共にバスターの精がほとばしり、レアナの中に注がれた。その勢いと熱さに、レアナはたまらず声を上げ、バスターにしがみつく腕に力を込めた。
 二人の声が同時に部屋の中に響いた後、部屋には静寂が訪れた。レアナはバスターに抱きついたまま、バスターもまた、レアナを抱きしめたままだった。
「レアナ……?」
 静寂を破ったのはバスターの声だった。あんなにも激しくレアナを愛した張本人とは思えないほど冷静で、だが一抹の心配も含まれていた。
「バスター……なあに?」
 その声に、レアナは優しい声で応じた。自分の体に覆い被さるバスターの頭に手を伸ばし、その赤い髪を指で梳いた。
「その……悪かった。今日は俺、お前のこと、全然、思いやってなかったよな……」
「そんなこと……ないよ」
 レアナはくすっと笑うと優しい笑顔でバスターの髪を梳いていた。
「ちょっとだけ、いじわるだったけどね」
 レアナのその言葉に、バスターは顔を赤くした。レアナへの愛撫を始めとした一連の行為が彼女にとって激しいものであると分かっていながら、やめられなかった自分への反省からだった。
「悪い……本当、悪かった」
「そんなにあやまらなくても……いいよ」
 年下でいつもは子供っぽいレアナと今は立場が逆転してしまったような感覚をバスターは覚えた。今夜、レアナにしたことを考えると、バスターは自分はまるきり自制心のない獣のオスのようなものだったのではないかと思った。
「やっぱり……酒のせいだったのかな」
「お酒?」
「ああ……その、お前が……いつも以上に……綺麗で大人っぽく見えたんだ。俺が……我慢出来なかったくらいに」
「や……! バスターってば……!」
 バスターの言葉にレアナは顔を朱に染め、口元を恥ずかしそうに押さえた。その様がなんとも愛らしく、バスターはいつもの軽口めいた口調でレアナに問いかけた。
「お前に酒を飲ませるとこういうことになるのなら……毎晩、飲んでみるか?」
「バ、バスター!……も、もう!」
 すっかり顔を赤くしたレアナの体をもう一度抱きしめ、バスターは彼女の赤く染まった頬を優しく撫でた。それからレアナの目を見つめると、レアナが本気で怒っている訳ではないことがすぐに分かった。
 二人は再び唇を重ねた。お互いの体の熱が唇を通して伝わり、その熱は、あたかも二人のお互いへの想いの具現化の一つであるとも言えた。大きくはないベッドの上で、二つの熱はお互いを離さずに交わり合っていた――。



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