No.101…"DS湯けむりサスペンスシリーズ フリーライター 橘 真希 「洞爺湖・七つの湯・奥湯の郷」取材手帳"(2008.4.24/DS/開発:エピックス/販売:ゼンリン)

 DSで今から9年も前にひっそりと発売されたADVで、知名度ははっきり言って低く無名に等しい。更に登場人物も背景も実写映像ということから躊躇してしまったプレイヤーも多いようで、私もつい最近になってこのゲームのタイトルを知ったのだが、サウンドノベルのエポックメイキング的作品である『弟切草』では原案・脚本を、それに続くチュンソフト謹製サウンドノベル第二弾『かまいたちの夜』では監督を、更にそれまでの二作とは打って変わって実写画面となったがそれ故に深い味わいがあったチュンソフト謹製サウンドノベル第三弾『街』では総監督を務めた麻野一哉氏がシナリオ監修を手掛けていると知り、今なら安いし……という気持ちもあって買ってプレイしてみたが、これがなかなかの佳作であった。ただ、「DS湯けむりサスペンスシリーズ」と銘打っているのにこの一作だけで終わって続編は出ていないことは少々残念ではあるが……。

 前述したように、ゲーム画面は全て実写映像で、『街』が現実の都市である渋谷を舞台としていたように、この「フリーライター 橘 真希」も、「DS湯けむりサスペンス」というタイトル通り、実在の温泉地を舞台にしている。シナリオは全三章で、第一章では兵庫県の城崎温泉、第二章では北海道の洞爺湖温泉、第三章では大分県の由布院温泉を舞台として一話完結方式でそれぞれのシナリオが語られる。また、全三章にはそれぞれのシナリオで起こる事件以外にも、実は全てのシナリオが裏で繋がっているミステリ的な要素もあるので、その点は「湯けむりサスペンス」の面目躍如であろう。

 主人公はタイトルにも名前が出ているフリーライターの橘真希と彼女の仕事仲間であるフリーカメラマンの木村聡美、それにモデル兼雑用係の青木友梨の三人組だが、全三章のうち、タイトルに名前が出ている真希の主観で話が進むのは第一章だけで、第二章では聡美、第三章では友梨の主観でシナリオが進んでいく。このうち、観光旅行気分で取材旅行に毎回ついてくる友梨は第一章では大して役にも立たなそうな印象のまま話は終わるが、第二章では意外な能力の持ち主であることが判明したり、第三章では単に頭が軽いだけではないなかなかしたたかな女性であることなどが掘り下げられている。そのため、クリア後に主人公三人組の中で最も印象に残るのは、ゲームタイトルにも名前がフルネームで入っていて本来の主人公であるはずの真希ではなく、友梨ではないかと思われる。

 第三章は三つのシナリオに共通していた全ての謎が解けるシナリオでもあり、それ故かこの第三章だけ選択肢を間違えると即バッドエンドとなる場面が幾つかある。それらの選択肢のうち正しいほうを選んでバッドエンドを回避するのは友梨=プレイヤーなので、簡単な選択肢ばかりだとは言ってもそれなりに緊張はする。しかし、先にも書いたが、この第三章の主人公が友梨であるため、主人公三人組の中で本来の主人公であったはずの真希の存在感は完全に友梨に食われてしまっている。出来るならもう一つ章を増やしてその最後のシナリオの主人公を再び真希に戻してくれていれば、真希の主人公としての面目躍如が出来たのではないだろうかと思ってしまう。それに、全三章のシナリオはテンポはいいがフルプライスソフトとしては物足りないと言うのが正直な本音でもある。

 また、操作性にも少なからぬ問題がある。基本はボタン操作でほとんどこと足りるのだが、舞台となっている温泉地を移動する際にはマップ上で行きたい場所をタッチペンでクリックする必要があるし、現在地の画面内で気になる場所を指し示す場合もタッチペンが欲しいし、出会った人物や事件に関する情報を「手帳」で確かめたり、セーブしたりするときなど、頻繁にタッチペンが必要となってくる。ゲーム本編自体はボタンを使わずタッチペンオンリーで操作出来るようにはなってはいるのだが、テキストを読んだり他の登場人物と会話する際にはボタン操作のほうが快適なため、ボタン操作メインでプレイしていた私のようなプレイヤーの場合、舞台を移動するときや集めた情報を見たいとき、それにセーブするときにはタッチペンをいちいち使う手順が要求されるのが煩わしかった。セーブに関しても、必ずしもセーブしたポイントから次にロードした際に始まるわけではなく、おそらくゲーム本編内に未公開でセーブに関係するチェックポイントが設けられており、セーブ時の時間軸にいちばん近いチェックポイントまで時間が巻き戻った時点からプレイ再開するという点も面倒に感じられた。

 色々と苦言を呈してしまったが、実写故に登場人物の表情は生き生きとしているし、実在の温泉地が舞台であるというのも、実際に自分がそれらの温泉地に行ったら役立つだろうなあなどと思ってしまうほど取材もしっかりしている。発売時は定価4000円台のフルプライスソフトだったが、発売から9年が経過した現在では半額以下、それこそ千円札一枚もあれば入手出来るので、もし興味を持たれたらプレイされてみてはいかがだろうかと思う一品である。麻野氏が関わっているためか、ほんの小ネタだが『弟切草』や『かまいたちの夜』を連想させる台詞が仕込まれているのも心憎いところである。

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