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「…意見はそれだけかよ!」
啖呵を切るのはいつも熱血に満ちたガイからのような気がする。やんわり押し流すように反論するのはバスターの常套手段。幾度となく繰り返させる喧々囂々の言い合い。
レアナはそんな二人の争いの間に入ることもなく、無視を決め込んでいた。何につけても衝突する彼らを止める術は自分にはないと悟っているのかのように。
それよりもジグソーパズルがなかなか完成できないことでいらついていた。
今どき見ないレトロなジグソーパズルは、テンガイ艦長から贈られたものだ。絵はどこかの地方にそびえ立つ白い城。ずいぶん昔に建造されたものだとバスターから聞かされた。もちろん今その城は地上に存在しない。TETRAに乗船してから何度もこのパズルを作っては壊し、作っては…を繰り返している。最後までピースがはまらなくなるとやめてしまうからだ。それでも何故か再挑戦を繰り返す。その駆け引きを自分の中で楽しんでいるかのかもしれない。
「何度でも言ってやる。“指示”には従え」
「お前の指示にかよ、じょぉだんじゃねぇっ!」
ガイはバスターの胸倉を掴み、怒りに満ちた形相で食ってかかる。それをバスターは荒ぶることなく冷静に応える。
「バカか? 艦長のだ。でなきゃ、お前が先に出るとフォローする俺らが困る」
「それは、耳にタコができるほど聴いたっつーの!!」
「フタリトモ、ヤメテ、クダサイー」
クリエイタがバスターとガイの間で右往左往する。
レアナはまだジグソーパズルに向かって悪戦苦闘している。
「あ〜あ……もう、わかんないぃ〜!」
ドンと机を叩く。その音が思いの外大きかったためか、バスターとガイが驚愕して振り返る。
ピースは机の振動と風圧でバラバラにばらまかれ、挙げ句の果てにジグソーパズルまで床に落としてしまった。
椅子から降りたレアナは、ぺたりと床に座りピースを拾い始める。
言い争っていた二人がバツが悪そうに顔を見合い、レアナの元へ駆け寄る。
「んもぅ〜…やっちゃったぁ〜」
「……わりぃ、レアナ」
ほとんど同時に謝るバスターとガイ。レアナはうつむいたまま小さく首を振る。いつもなら『もぅ〜、しかたないなぁ〜』と口元をふくらませながらぼやくのだろうと思っていた二人だったが、今日に限っておとなしい彼女に少し驚く。余計に気まずい雰囲気が室内に漂った。
しばらく無言だったレアナだが、ようやく重い口を開く。
「……ねぇ、あたしたちってさぁ、地球から離れたジグソーパズルのピースみたいだね」
散らばったピースを指さす。
「これが地球。そしてこれがあたしたち…。でも、ピースがひとつひとつくっついて、あたしたちは今ここにいるんだよ。分かれたらバラバラになっちゃう」
「レアナ…」
「ね? こうバラバラだと、どうすることもできないよ」
バスターがレアナが泣いているような気がして、肩にそっと手を置く。
「……悪かった、な」
レアナはバスターの手の温もりの上に自分の手を重ねて、小さく頭を横に振った。
「本当にバラバラにならないでほしくないの。バラバラになって悲しいのはみんなだと思うから」
「ソウ、デスネ」
クリエイタがニコリと微笑む。バスターとガイもつられて表情がゆるむ。
「ま、仕方ねぇな!」
照れくさそうにするガイに対し、“当然だろう?”という表情をしながら応えるバスター。
「あぁ」
その言葉を聞いて、レアナは安心したかのように息をついて呟いた。
「…よかった」
レアナのその笑顔が、なによりもバラバラのみんなを繋げているのだから、バラバラになることはないだろう。
自分たちは“未来”のためにここにいるのだから。



あとがき


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