[小さな守護者]


 TETRAの食堂兼リビングのようになっている部屋。その部屋のテーブルの上で、レアナが何やら布をばらまき、ちくちくと細かい作業をしていた。飲みものを取りに来たバスターは、その光景を目のあたりにして、そういえばレアナの趣味はぬいぐるみ集めだったなと気付いた。
「よお、レアナ。新しいぬいぐるみか?」
 その声に一瞬手を止め、レアナは顔を上げた。そこにはいつも彼女が絶やさない笑顔が張り付いていた。
「今度は何を作るつもりなんだ?」
「えっとね、クリエイタのぬいぐるみを作ろうかなって思って」
「クリエイタの?」
「そう。クリエイタって丸っこいから、ぬいぐるみにしたら可愛いだろうなあと思って。そう思わない?」
 バスターはクリエイタのフォルムを思い浮かべた。確かに全体に丸っこくて愛嬌のある体で、ぬいぐるみ向きと言えた。
「でも俺は意外だったな」
「え? なにが?」
「お前がこうやって裁縫が出来るってことだよ。俺はてっきり、パイロットになるための訓練しか受けてこなかったのかと思ってたからよ」
「もう、バスターってばイジワルなんだから。あたし、ぬいぐるみ集めるのも好きだけど、作るのも好きだよお? 施設の職員の人でお裁縫が上手な人がいてね。その人にこっそり習ったの」
 そう言うと、レアナはまた手元を動かし始めた。バスターは当初の目的も忘れ、その様に見入っていた。1時間も経った頃だろうか。レアナは最後にフェルトで作った目を手芸用ボンドで貼り付けると、歓喜の声をあげた。
「かーんせい! どう、バスター? 似てるでしょ?」
 バスターがその完成品を見てみると、確かにそれは大きさこそ半分以下だったが、クリエイタだった。
「どれどれ……」
 バスターはレアナからぬいぐるみを受け取ると、まじまじと見つめた。レアナの意外な特技を知ったと同時に、その手が作り出すものには、彼女の持つ温かみが宿っているようだと思った。
「上手いな。さすがってところだな」
 バスターはそう言ってレアナにぬいぐるみを返した。
「人形は作らないのか? 人間型の」
「うーん……人の姿の人形って、ぬいぐるみでもなんだか少し怖い気がするの。そう思わない?」
「俺はそんなこと考えたこともなかったなあ……大事な相手のぬいぐるみだったら、逆にお守り代わりになるような気もするけどな」
「そうなんだ……」
 レアナは裁縫道具や布を片付けながら、バスターの言葉を聞いていた。何か考えているようにも見えた。

 一週間後。バスターが自室でくつろいでいると、ノックの音がした。多分レアナだろう――その予感は当たった。扉を開けると、レアナは両手で何か隠すように持っていた。
「あ、あのね、バスター……あたしのこと……好いててくれてるよね?」
 突然の突拍子もない質問に、バスターはのけぞりそうになったが、すぐに冷静さを取り戻した。耳は赤く染まりながらも。
「そりゃ、まあ……お前が嫌いだなんて一度も言ったことないだろ? それに……ああもう、こんな恥ずかしいこと言わせるなよ。好きでもない相手にキスまでするほど、俺は女たらしじゃねえんだぞ?」
「よかった……じゃあ……これ、あげる」
 レアナが両手を開くと、そこには両手にすっぽり収まるサイズのレアナのマスコットが載っていた。バスターは意外な顔をしたが、そっとそのマスコットを手に取った。レアナ本人をデフォルメしている、一言で言えば「可愛い」マスコットだった。
「あの……バスター、前に言ってたでしょ。大事な相手のぬいぐるみだったら、お守り代わりにするって……布が足りなくて大きなぬいぐるみは作れなかったけど、マスコットくらいなら作れたの……あたし、お節介だった?」
「い、いや、そんなことねえさ」
 バスターはレアナの不安を取り除こうと、笑顔で返答した。
「こいつはありがたく俺の1号機に飾っておくぜ。可愛すぎてミスマッチかもしれねえけどな。ありがとうな、レアナ」
 レアナは顔を赤くしていた。「可愛すぎて」というバスターの言葉に反応したようだった。そんなレアナをバスターは抱きしめ、柔らかな髪を撫でた。
「ありがとうな、本当に……」
「ううん、あたしが好きでやったことだもん。バスターがこんなに喜んでくれたなら……嬉しいな」
 二人はしばしの間、立ったまま身を寄せていた。バスターの右手には、小さなレアナがぶらさがっていて、寄り添う恋人たちを見守っているかのようだった。



あとがき


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