[終わりの刻に]


 西暦2521年7月13日、地球連邦軍中央司令部上空。「石のような物体」の操る超級巨大戦艦2機をシルバーガン3機のみで撃墜したことが、レアナにはまだ信じられないようだった。
「ねえ、バスター、ガイ……あたしたち、あれに勝ったんだよね? ウソみたい……」
「嘘じゃねえぜ。俺達は奴らに勝ったんだ……しかしシルバーガンがここまで高性能戦闘機とは思わなかったな……」
「シルバーガンの性能だけじゃねえぜ。俺様達の腕もな」
 それぞれの意見を言い合うと、レアナはクリエイタが潜入した中央司令部のほうを心配げに見た。
「クリエイタ、おそいね……」
「データ解析に手間がかかっているのかもな。けど、またあんな超級艦が出てきたら相手出来るかどうか……」
 バスターが言葉を続けかけたその矢先、「石のような物体」が現れ、中央司令部の建物を攻撃した。高層建築である司令部は、中央部付近からまるで発泡スチロールのように崩れ、倒れだした。
「クリエイタ!」
 レアナが悲鳴をあげた。だがそのとき、離れた場所から戦況を見守っていたTETRAが急接近し、倒壊しかけた中央司令部ビルを支えた。そのおかげで完全倒壊は免れたが、TETRAの強度と中央司令部の倒壊しかけている上層部との重さを比べれば、長くは持たないことは明らかだった。
「艦長! 大丈夫か!?」
 バスターが思わず声をあげる。しかし、返事はなかった。恐らくTETRAを制御するだけで手一杯なのだろう。
「クリエイタはまだなのかよ!?」
 ガイが怒鳴ると、崩れかけた上層部から小さな影が飛び出してきた。それは間違いなく、クリエイタだった。
「クリエイタ! 無事だったんだね!」
 レアナが歓喜の声をあげた。同時に、TETRAも崩れかけた中央司令部の建物から離れた。上層部の建築が、めりめりと音を立てるかのように倒れた。
「これでようやく安心……いや、あれは……石が!?」
 バスターは「石のような物体」がTETRAのほうへ近づいていくのを見た。そして、「石」はレーザーユニットをまたたく間に組み上げて、TETRAに向かってレーザーを撃ち放った。
「く、くぅぅ……!」
「か、艦長!」
 テンガイのうめき声がモニター越しに伝わってきた。レアナは泣きそうな顔でテンガイの名を呼んだ。
「てめえぇぇぇーっ!」
 バスターがTETRAを援護しようとしかけたとき、ガイの叫び声が響き渡った。その声は逆上しており、明らかに冷静さを欠いていた。その声を聞いた瞬間、バスターはガイを止めなくてはと咄嗟に感じた。
「待て! ガイ!」
 だが、その声はもうガイには届いていないようだった。「石のような物体」が組み上げたレーザー砲台の真正面にシルバーガン3号機が躍り出た。
「へ、へへっ…こうも近けりゃ撃てねえだろ?…撃てねえだろうがーっ!」
 バスターだけでなく、レアナもガイがやろうとしていることに気付いたようだった。
「ガイ! 何するの!」
「おい! やめろ! ガイ!」
 バスターとレアナの叫ぶ声もむなしく、ガイは既にスラスターを全開に噴かしていた。モニター越しに絶叫するガイの様子が見て取れたが、間もなくプツンとモニターの画像は途切れた。それがバスターとレアナの見た、最後のガイの姿だった。
「やめてーっ!!」
「ガイィィィーっ!!」
 その瞬間、レーザー砲台とシルバーガン3号機は、閃光を放つと、バラバラの破片となって地上に落ちていった。バスターもレアナも信じられなかった。ガイが死んだのだという現実が。2機のシルバーガンが動けないでいるとき、半壊したTETRAからテンガイの声が響いてきた。
「ガイィ!!」
 TETRAはところどころから煙を吹きながら、かろうじて飛んでいるような状態だった。しかしそのTETRAが「石のような物体」の前まで飛んで行ったとき、バスターとレアナはまたしても悲鳴に似た叫びをあげた。
「艦長! 何をするつもりだ!」
「やめて! もうやめてぇー!」
 その一瞬、テンガイが彼らを見つめる顔がフラッシュバックのように二人の脳裏をかすめた。その視線が脳裏から消えると……TETRAはその形をとどめていなかった。「石のような物体」は遥か上空へ退避したようだったが、対照的に、TETRAだった残骸は地上へ落ちていった。
「ガイ……艦長……」
 レアナは二人の名を呟き、呆然としていた。バスターも目の前で起こった事実が信じられなかった。だが、なんとか冷静さを取り戻すと、レアナに向かってモニターに叫んだ。
「レアナ! ここは一端、退避しろ!」
「え……だ、だって……」
「ガイと艦長のしたことを無駄にするつもりか!?」
 レアナはその言葉にハッとなり、地上に退避する1号機に従って、2号機を続けて飛ばした。レアナの視界はぼやけてよく見えなかった。それはどれだけ拭っても止まらない涙のせいだった。


 それから数刻の後。バスターとレアナはクリエイタと共に地上にいた。

「イクノデスネ?」
「うん……でも大丈夫。バスターがいっしょだもの……」
 まだ少し腫れた目をしたレアナはそう言うと、バスターと握ったままの片手に力をこめた。そしてその力に、バスターも同じように力強く握り返して応えた。
「じゃあ行ってくるね、クリエイタ」
「さっさと済ませてくるぜ。留守番、よろしくな」
「ハイ 気ヲ ツケテ イッテキテ クダサイ……」

 バスターとレアナはそう言い残すと、シルバーガンで大気圏外へと飛び去っていった。それは最後の人類と、人類に残された最後の兵器が、最後に地球を去ったときとなった。何もかもが最後であった。ただバスターとレアナの想いと、クリエイタに託された希望だけを除いて――。



あとがき


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