[ささやかな約束を]


「バスター」
 レアナの声にバスターがその方向を見ると、レアナが彼のベッドの上で足を組んで座っていた。レアナはここ最近、バスターの部屋によく出入りするようになった。だが、それをバスターが鬱陶しいと思ったことはない。むしろ彼女がそばにいることで、彼の心が安らぐ気さえした。
「どうした?」
 バスターは読みかけの本をテーブルに置くと、レアナの隣に座った。レアナはバスターの腕に自分の腕を絡ませ、頭をもたれかけてきた。
「置いていかないでね」
「?……へ?」
 突拍子もないレアナの嘆願に、バスターはその意味を理解できずに思わず情けなげな声を出してしまった。だが、咳払いをすると、すぐにいつもの口調に戻った。
「何がどうしたんだよ。いきなりそんなこと」
「だって……あと2ヶ月で一年前……になるよね? 地球があんなことになって」
「ああ、そうだな……」
「あのとき、長官たちはあたしただけを退避させて、結局死んじゃったでしょう? でもそれって、長官と仲の良かった艦長や、長官の子供のガイにとっては、置いてけぼりを食わされた気分だったんじゃないかって……」
「そういう考えもあるな……」
「だから、バスターにはそんなことしてほしくないの」
 レアナは隣のバスターの顔を見上げ、きっぱりと言った。
「バスターがいなくなるなんて、考えられないの。だからお願い。あたしたちを……あたしを置いていかないで。どんな姿になってもいいから、そばにいて……」
 最後のほうはレアナはぽろぽろと涙をこぼしていた。レアナがパイロットスーツの袖でいくら拭っても拭っても、涙は止まらなかった。バスターが洗面所からタオルを持ってくると、そのタオルも随分と涙を吸った。だが、ようやく涙が止まり、レアナが目元を腫らした顔を上げると、バスターが彼女の肩を抱き、優しく笑っていた。
「わかった。約束する。だいたい、俺がそんな簡単にやられるわけないだろ?」
「バスター……」
「その代わり、お前も約束しろよ?」
「……何を?」
「俺より先に逝っちまうような真似だけはしないでくれ。それこそ……俺はお前以上に耐えられないかもしれない……」
「……うん。約束するよ。あたしたち、最後まで一緒だよね……?」
「縁起でもないこと言うなよ。けど……お前とはずっと一緒にいて、命をまっとうしたいな……」
 バスターがレアナの肩を更に抱き寄せると、レアナは腕をバスターの体に伸ばし、その胸に顔をうずめた。バスターはレアナの髪の毛を撫で、そっとその柔らかな髪にくちづけした。静かな部屋の中で、二人も時を止めたように静かに寄り添い合っていた。



あとがき


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