[遠い記憶]


 バスターの1号機とレアナの2号機、2機のシルバーガンが宇宙へと飛び立って数年。二人はクリエイタの待つ地球には、ついに戻ってこなかった。

 クリエイタは中央司令部で見つけ出した情報で「未来」を知っていたが、それがわずか数パーセントの望みでもいい、帰ってきてほしいと願っていた。しかし、結局は運命を変えられなかった。それから数年をバスターとレアナのクローンを育成しながらクリエイタは過ごしたが、自分を心のどこかで責めていた。あのとき、二人が「石」を追って宇宙へと行くのを止めていたら、たとえ短い時間であっても二人を地球で生かせていれば――そんなことをクリエイタは繰り返し思っていた。

 特にずっと気にかけていたことは、バスターとレアナが宇宙で死に、地球では死ねなかったということだった。シルバーガンの欠片一片でもいい、地球のどこかに落ちていてくれれば――クリエイタは何度もそう思ったが、あの「石」の閃光に巻き込まれたことで、シルバーガン2機の残骸も、バスターとレアナ、二人の遺体も、何もかもが宇宙で消えうせてしまっていた。なぜ、このような仕打ちを二人に与えたのですか――二人が全ての責任を負うべき最後の人類だったから? 歴史をリセットするためには二人は生きていてはいけなかったから? クリエイタは時折、苔むした「石」が鎮座する場所までやってきて、そう心の中で問いかけた。

 クリエイタはバスターとレアナ、二人の墓標を作ろうかとも思った。それはガイとテンガイには墓があるのだから、という単純な思いだけではなくて、クリエイタの気持ちの問題でもあった。墓を作ることで、地球に帰れずに死んだバスターとレアナの魂を、この場所に呼び戻したかったのだ。「魂」などとロボノイドであるクリエイタにはおよそ似つかわしくない単語だったかもしれないが、逆を言えば、人に創造されたロボノイドだからこそ、「魂」や「生命」、そして「死」というものに対して敏感であったのかもしれない。

 だが、クリエイタはバスターとレアナの墓を作ることは、結局やめた。なぜなら、彼らは生きているのだから。それはとりもなおさず、二人のクローンのことを指していた。確かにこの培養ケースの中に眠るバスターとレアナはクリエイタを知らないし、TETRAでの日々も覚えていない。だが、クリエイタはこの二人のクローンを、オリジナルの生まれ変わりだと思うようになっていた。ロボノイドの彼は宗教を持たない。けれども、転生というものをクリエイタは信じたかった。今、自分が育てているのはバスターとレアナのレプリカではない。共有する記憶はなくても、二人は再びこの世に生まれてきたのだと。

 クローンの二人から再興した人類の中に、再び生まれてくるだろうオリジナルのバスターとレアナ。クローンがアダムとイヴで、その子孫がオリジナルというのも不思議な話だが、それはバスターとレアナが背負って生まれたさだめなのだろう。オリジナルの二人がまた数え切れないほど何度目かの愛を貫き、平穏にその生涯を終えられる日が来たとき――クリエイタはそのときこそ、二人に「おめでとう」と言ってやりたいと思った。だが、自分の寿命は、せいぜいあと十数年。そんな遥か未来まで生きることは不可能だということは、もちろん承知していた。それでも、輪廻する自らの心のどこかで記憶していたいとクリエイタは願った。遠い記憶を、その魂の中に――。



あとがき


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