[小さきもの、未来があるとしたら]


「なあ、クリエイタ」
「ナンデショウカ?」
 洗濯物を仕分けてたたんでいたクリエイタのところへ、ガイが妙に神妙な顔をしてやってきた。自然とクリエイタの仕事を手伝っていたガイだったが、次の瞬間、思いも寄らぬことを言い出した。
「バスターとレアナの間に子供が出来たら、俺様はどういう立場になるんだろうな」
 クリエイタはあまりにびっくりしたために転びかけたが、なんとかバランスを保って立ち直った。その様は、まるでおきあがりこぼしのようだった。
「ナ……ナニヲイウノデスカ?」
「だってよ、最近、あいつら仲いいじゃねえか。そういう可能性もなきにしもあらずだろ?」
「ソレハ……ソウデスガ」
 ガイが言ったとおり、この西暦2521年が明けてからの初夏あたりから、レアナはバスターのそばに居ることが多くなった。「レアナを探すならバスターを探せ」とは、ガイが言った冗談だが、本当にその通りだった。二人が特別な関係にあることは、テンガイやクリエイタはもちろん、こういう恋愛事に疎めなガイでさえ気付いていた。
「俺様、「おじさん」呼ばわりされちまうのかなあ。「兄ちゃん」とかならいいんだけどな。ほら、俺様って一人っ子だろ? だから兄弟がほしかったんだよなあ」
「ガ、ガイ……ハナシガ トビスギデスヨ」
「そうか?……まあ、そうだろうな……俺達、7月頃にはもう一回地球に降りなきゃいけねえんだからな……」
 しんみりとした洗濯室で、しばしの間、服を仕分けてたたむ音だけが小さく聞こえた。その静寂を破ったのは、ガイだった。
「うーん……でも、地球に降りても無事だったら、やっぱり俺様は「おじさん」か「兄ちゃん」になる可能性大だよなあ……」
「ガイ……」
「嫉妬ってんじゃねえんだ。あの二人が上手くいくんだったら、俺様は全力で応援するぜ。馬に蹴られて死ぬ気もさらさらないしな」
「ソウ……デスカ」
「クリエイタ、お前も同じようなこと、考えてないか? あいつらが上手くいくようにってさ」
 クリエイタはすぐには返事せず、しばしの間考えていた。新しい命が生まれることは、ロボノイドである彼にとっても嬉しいことだ。だが、この状況下で、新しい命が生きていくことが出来るだろうか? クリエイタは半ばパニックになりそうだった。
「クリエイタ?」
 ガイの呼びかける声で、クリエイタははっと我に返った。見れば、ガイが心配げな顔つきで彼を見ていた。
「ま、地球に降りてみなきゃ、先のことなんてわかんねえよな。うん」
「二人とも、地球に降りたらとか、なに話してるの?」
「?……レアナ!?」
「イ……イツカライタノデスカ?」
 動揺するガイとクリエイタを尻目に、レアナは自分のぶんとバスターのぶんの洗濯物をまとめて抱えた。
「たった今だけど……なあに? あたし、聞いちゃいけなかったの……?」
「そ、そんなことねえよ! な、クリエイタ!」
「エ、エエ! モチロンデストモ!」
「ふーん……クリエイタまでうなづいてるんなら、なんでもないんだね」
「おい、俺様は信用できねえってのか?」
「別にそういうわけじゃないよ。クリエイタはいつも正直だから、そう言っただけ。ねー、クリエイタ」
「ハ……ハイ」
 たった今、嘘をついたばかりのロボノイドは、笑顔をアイモニターに映して答えた。そして、心中でガイに詫びていた。自分達は「共犯者」なようなものなのに……。
「じゃあね。洗濯物、ありがとう」
 そう言ってレアナは洗濯室から出て行った。ガイとクリエイタは同時にほっとため息をついた。
「はあ……あいつは直感が強いから、突っ込まれたらどうしようって思ったぜ。でも、クリエイタの人徳のおかげだな。しかし俺様って、そんなに信用ねえのかなあ」
「ガイノコトハ ミンナ スキデスヨ。タダ、ワタシハ ロボノイドデスカラ シンヨウドガ タカイノデショウ」
「いいこと言ってくれるなあ、クリエイタ。俺もお前が大好きだぜ!」
 ガイはクリエイタの頭に片手を置き、笑ってぐりぐりと撫で回した。
「問題はあの二人次第なんだよな。全く、こっちがやきもきさせられちまうぜ」

「へっくしょ!……なんだ、風邪かな?」
「ええ、そうなの? クリエイタにお薬もらってこようか?」
 ちょうどバスターの部屋でバスターの洗濯物を仕分けていたレアナが、心配そうに尋ねた。
「いや、別に喉が痛いとか症状もねえし、別にいいさ。誰かが噂でもしてたのかもな」
「うわさ……ガイとクリエイタかなあ?」
「へ? なんであの二人が……」

 この後、バスターは真っ赤になりながらガイと口論することになる。しかし、それは本気の怒りからではなく、傍から見ていても微笑ましいものがあった。クリエイタによる船内日誌には、そう記録されている。



あとがき


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