[三つの想い、一つの願い]


 あの二人の間には自分は入れないな――ガイはバスターに寄りかかったまま眠るレアナと、それを嫌がるでもなく、普段は見たこともない優しい目で彼女を抱き寄せているバスターの姿を捉えて、しみじみと実感した。

 レアナとは初めからウマがあった。ガイの実直でまっすぐな部分と、レアナの純粋で何事にも一生懸命な性格とが、うまくリンクしたのだろう。バスターはレアナと一緒にTETRAに配属されてきたのだが、レアナは最初の頃、時々こんなことをこぼしていた。
「あたし、バスターのことがたまにわからないの。バスターの言うことがときどき本当なのかどうかわからないんだもの」
 その言葉を聞いたガイは最初、バスターがレアナを本当に邪険にしているのかと一瞬思ったが、バスターの性格を思い返してみて、そんなはずがないだろうと悟った。バスターは皮肉屋で少しばかり……と言うよりかなりひねた部分があるが、人付き合いは悪くないことは、人間関係の把握に疎いガイでさえ、すぐに分かったことなのだから。だから、レアナにはこう答えておいた。
「あいつはそういう奴なんだよ。お前のことを嫌ってるわけないだろ。安心しとけって」
 ガイの言葉に、レアナは少しホッとしたような表情に変わった。だが、それから数ヵ月後、ガイはあのときの意見を修正すべきだったなと思った。「あいつはお前のことが好きだから、どうしていいんだか分からないんだろう」と。

 実際、ガイがバスターと軽口を叩いているときでさえ、バスターとレアナとのことをガイが話題に出すと、バスターは面白いくらい普段の冷静沈着な仮面を落としていた。時にはしどろもどろになり、それがますますガイには面白かった。
 レアナが相手のときは、もっと簡単だった。レアナがまるで感情を隠せない性格であることは、TETRAクルーならばテンガイからクリエイタまで皆が知っていることだったが、バスターとのことを問いかけると、みるみる耳まで顔を赤くしていた。からかいがいのある二人だと、ガイは内心で愉快に思っていた。

 しかし、同時に、バスターとレアナの親密な光景をたまに見るにつけ、ガイは一抹の寂しさを覚えていた。自分はあの中には入れないのだと確信していたから。それほど二人の関係は仲睦まじく見えた。まるで引き離されてふたつになったひとつの命がめぐり合ったかのような――それぐらい、二人は「他人」というふたつの個体ではなく、「惹き合って完成したひとつの生命」のようだった。

 だが、少々の寂しさはあっても、バスターやレアナがガイにとって大事な仲間であることには変わりなかった。それに、ガイはバスターとレアナには幸せになってほしいと心の奥底で願っていた。嫉妬心などかけらもなかった。こんな状況であっても、いや、こんな状況だからこそ、仲間が幸福な時間を過ごせることを願った。「家族の幸せは自分の幸せ」と言うが、ガイにとって、バスターをはじめとするクルー達は、失った両親とは別の「もうひとつの家族」だったのだから。

「……俺様がこんなこと思うようになるなんてな。あいつらにはヤキモキさせられっぱなしだけど……素直になれよな、特にバスターは……」
 自室でベッドに仰向けに寝転がりながら、ガイは誰に言うでもなく呟いた。TETRAクルーの中では一番の問題児であったガイ。時に軍人らしからぬ直情的な行動に出がちだったガイ。それでも、仲間のことをいちばん思っていたのはガイであったのかもしれない。

 後に彼が命を落とすときも、最期まで願ったのは、「もうひとつの家族」の幸せだった。ガイの最期の願いが通じるまでには彼やテンガイ、バスター、レアナらが死んでから20年の年月が要された。クリエイタによって再生された「バスターとレアナのクローン」=「人類最初の家族」が目を覚ますまで。この「家族」には、ガイの言葉は時を越えて届いたのだと……ただ素直に信じたい。



あとがき


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