[Terra]


「レアナ、何してんだ?」
 レアナはTETRAの通路に設けられた窓枠に寄りかかるようにして外界を見ていた。そこへバスターが声をかけたのだった。
「あ、バスター……ちょっとね。地球を見てたの」
「地球? ああ、今ならここからでも見えるもんな」
 そう言うとバスターはレアナと同じように窓に近寄り、宇宙を見渡した。眼前には地球が広がっていた。漆黒の宇宙空間の中で、それは何よりも青く、美しかった。
「きれいだよねえ……」
 レアナが感嘆するように声を漏らした。
「そうだな。半年前にあんなことがあったなんて、嘘みてえだぜ」
 半年前――2520年7月14日。この地球上の人類は覚醒した「石のような物体」によって全滅したのだ。衛星軌道上に退避したTETRA乗組員を除いて――。
「ねえ、バスター」
 レアナは地球から目を離すと、どこか悲しそうな声で問うた。
「地球って、人間のこと、嫌いなのかな」
「……何言い出すんだよ。いきなり」
「だって、あんなことがあって、あたしたちはこんな宇宙に取り残されたままだし……もう地球に帰ってくるなって言われてるみたい……」
 レアナは再び地球に目を向けた。その目には、哀しみがあふれていた。
 バスターも地球に目を向けて、しばらく思案した。だが、ゆっくりとレアナのほうを向くと、幾分穏やかな口調で返した。
「……どうなんだろうな。正直、俺にもわからねえよ」
「……バスターも、そう思う?」
「ああ……けど、人間は絶滅した訳じゃねえだろ? 少なくとも、俺達はこうして生きてるじゃねえか。地球にもし意思みたいなものがあるとして……俺達がまだ生きている意味は何かあるんじゃないかって思わねえか?」
「そうかな……」
「何しめっぽいこと言ってんだよ、二人とも!」
 二人が背後からの声に振り返ると、そこにはいつの間にやってきたのか、ガイが立っていた。
「ガイ!……もう、びっくりしちゃったじゃない」
「悪りぃ、悪りぃ。なんか声かけにくってよ。でも、俺様もバスターの言うことには、結構賛成だぜ?」
 ガイは窓に近寄り、眼前の地球を指差した。
「なんであんなことになったのか、今でもわかりゃしねえけどよ。でも、俺達の帰るところは結局あそこしかないんだぜ? だから、そんな弱気になるなって」
「そう……そうだよね……ごめんね、ふたりとも。つまんないこと言っちゃって」
 レアナは二人に向かって微笑んだ。
「気にすんなって! 俺達、仲間なんだからよ」
 ガイもにっかりと笑い返した。バスターも釣られるように笑った。
「そうだぜ。けどガイ。お前もたまにはいいこと言うな」
「おいおい!? 『たまには』ってなんだよ!? 俺様はいつだって間違ったことは言ってねーぞ!?」
「そうかあ? まあ、そういうことにしといてやるよ」
「『そういうこと』ってなんだよ!?」
「もう、バスターったら。ガイもそんなにムキになることないじゃない」
 バスターとガイの掛け合いに、レアナがくすりと笑みをもらした。もうその瞳には哀しみは見えなかった。

 窓から見える地球は変わらぬ美しさだった。何十億年も前から、そこに佇んでいるままに――。
 


あとがき


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