[Sweet]


「よお、バスター、いるか?」
 ガイはドアを開けざまに部屋の主を呼んだ。だが返ってきたのはバスターの声ではなかった。聞きなれたレアナの声だった。
「バスターなら今、ちょっといないよ。どうしたの? バスターに何か用?」
「いや、大したことでもないけどよ。それよりレアナ、お前、なんでバスターの部屋に居るんだ?」
「あたしもバスターに会いたくてここに来たの。そしたら、バスターが用があるから待っててくれって。だから、ここにいるの」
「ふーん……熱々だな、お前らって」
 ガイがおどけたような口調でレアナをからかうと、レアナは赤面しながらも反論した。
「あ、熱々って……そんな、そんなことないよ」
 話題を変えるかのように、レアナは飲み物を飲まないかと提案してきた。
「ガイはコーヒー? それとも紅茶? ココアもあるよ」
「コーヒーにしてくれ。ブラックでな」
 レアナは勝手知ったるかのようにバスターの個室に据え付けられたポットに自分の紅茶とガイのコーヒーを入れた。コーヒーをガイに手渡すと、コーヒーの熱さにガイは顔をしかめながら、茶化すようにレアナにからかった。
「バスターの部屋、ずいぶん良く知っているんだな。よく来るのか、ここに?」
 不意の質問に、レアナはほんのりと顔を赤くした。
「ま、お前らの仲のよさは俺様だけじゃなくて、艦長やクリエイタにも周知の事実だからな。今更隠し立てしなくていいんだぜ?」
「……そんな、えっと……ガイの意地悪」
 レアナの顔はもはやトマトピューレのように真っ赤になっていた。しかしちょうどそのころ、バスターが自室へと戻ってきた。
「おう、どうしたんだよ、レアナはともかくガイまでいるなんて」
「ちょっとした用があったんだけどよ、それはまたの機会にしておくぜ」
 バスターと入れ替わりにガイが出ていこうとしたとき、ガイはバスターにそっと耳打ちをした。
「幸せ者だな、お前は。まったくよお」
 一瞬、バスターはその意味を理解できなかったが、それがすぐにレアナとの関係だということを悟った。バスターは思わず赤面し、レアナも変わらず赤面していたが、バスターが手近の椅子に座ると、レアナはバスターの腕に自分の腕を絡ませてきた。バスターもまた、レアナの肩をそっと抱きしめた。
「コーヒー、冷めちゃうよ」
 レアナが注意を促すと、バスターはレアナの口元にそっと人差し指を押し当てた。
「いいさ。こうしているほうがずっといい」
「バスター……」
 レアナはバスターの腕にしがみついたまま、いとおしそうにその名を呟いた。二人のまわりを静かに時が流れていた。



あとがき


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