[結ばれた二人は皆に見守られて]


 朝を迎えたTETRAの通路を、ガイが朝食を取るために食堂へと向かって歩いていると、後ろから明るい声がかけられた。
「あ! ガイ! おはよう!」
 ガイが振り返ると、バスターとレアナの姿があった。レアナは片方の腕を上げて振りながら、もう片方の腕はバスターの腕に絡めており、寄り添ってこちらへと歩いてくる二人の姿には、本当に仲睦まじい雰囲気があふれていた。
「おう、バスター、レアナ。おはようさん」
「おはよう、ガイ。今朝も相変わらずだな」
 バスターがそう言うと、ガイは笑ってバスターとレアナの顔を見やった。
「相変わらずなのはお前らもだろう? 今日も朝から熱々だな」
 ガイのからかいを含んだ言葉に、バスターはうっすらと顔を赤らめたものの大して動じた様子もなかったが、レアナはたちまち顔を赤くして口ごもった。
「え、えっと……あ、あたし、先に行ってるね! バスター!」
 レアナはそう言ってバスターの腕を離すと、赤い顔のままで食堂のほうへ駆け出していった。そんなレアナの様子に、ガイは首をひねってバスターに声をかけた。
「なんだ? 俺様が熱々だってからかったからって、そんな大したことじゃねえだろう。なあ?」
 ガイがそう言ってバスターのほうを見ると、バスターは頭をかきながら、はっきりしない口調で答えた。
「ああ、あいつ……きっと、ゆうべ俺が言ったことを思い出しちまったんだろうな……」
「お前が言ったこと? 何を言ったんだよ?」
「その……だな……。俺達はほら、お前が前に言った言葉を借りたら新婚も同然だろう?……そういうことだ」
 バスターはあくまでぼやかしたままで答えたが、彼の口から出た「新婚」という言葉に、ガイはハッとなってバスターと同じように頭をかいた。
「えーと……もしかして、俺様がお前らのことを新婚ホヤホヤだとか言ったことを……レアナは気にしてるのか?」
「そ、そうなんだ……。お前にそう言われたってことを、つい、口が滑ってレアナにこぼしちまって……あいつ、真っ赤になってうろたえちまったから、俺はそんなに気にするなって言ったんだが……レアナの性格上、やっぱり無理だったか……」
「まあ、お前だって、俺がそう言った瞬間には真っ赤になってたくらいだもんな。俺様もちょっと冗談がきつかったかもって思ったし。悪かったな、バスター」
 そう言って率直に謝るガイの姿に、バスターの顔は余計に赤くなり、ぶんぶんと勢いよく両手を振った。
「い、いや! 俺達が新婚ホヤホヤだなんてお前に言われちまったのも、日ごろの振る舞いをかえりみれば当たり前だと思うし……! お前がそんなに謝る必要なんてねえよ……!」
「お前もそんなに赤くなることもねえだろう、バスター。俺様もお前らの熱々ぶりには戸惑ったりもしたけどよ……今じゃ、もう慣れっこになっちまったぜ?」
 ガイが笑ってそう答えると、バスターの顔はますます赤くなっていた。
「慣れっこって……俺達、そんなに人目もはばからずにいちゃついてるのか?」
「おいおい、もしかして、まるで自覚もなかったのか? 天真爛漫って言葉がぴったり当てはまるレアナならともかく、俺様と2歳しか違わないとは思えないほど大人びてるお前までがそんなことを聞いてくるなんてよ。レアナのことが絡むと、お前まで本当に周りが見えなくなっちまうんだな」
 そう言ったガイが腕を組んで笑うと、バスターの顔は彼の赤い髪の毛と同じくらいにすっかり真っ赤になっていた。
「そ、そうか……。俺は夜はともかく、昼間は節度をわきまえてるつもりだったんだが……お前から見れば目の毒だったんだな……。すまなかった、ガイ……」
「お前のほうこそ、そんな謝ることもねえんじゃないのか? お前らが目も当てられないほど熱々でも、そりゃそんな仲になっちまったのなら、仕方ねえことだと思うし……。けど、夜はともかくって……あ、そ、そうだな……」
 想い合った仲である年頃の男女が夜を共に過ごす意味をもちろんガイは知っていたが、バスターのこぼした「夜」という言葉から、バスターとレアナがあらわな姿で愛し合う様がガイの脳裏にはあまりにも具体的なほどに浮かんでしまい、ガイはカーッと赤面した。
「す、すまねえ、バスター……! 俺様は……あんまりにもお前らの仲に立ち入ったことまで想像しちまった……! レアナはもう、お前のものなのに……!」
「え? 立ち入った想像って、何を……あ……」
 バスターはガイが自分達の夜の有り様を想像してしまったのだということに気づき、もうこれ以上ないほどに真っ赤になっていた。
「その……俺達は……」
「いやいや! バスター、もう皆まで言うな! これ以上、具体的に想像しちまったら……俺様はお前に殴られねえと、お前にもレアナにも申し訳なさすぎて示しがつかなくなっちまう……!」
「ガ、ガイ……! 分かった……もうこの件はこれでおしまいにしよう。な?」
「お、おう……。分かったぜ……」
 バスターは大きく息をつくと、ガイの顔を見て、苦笑しながら言葉をかけた。
「俺達、前にもこんなやり取りをしたことあったよな……。お前の言った『男の約束』ってやつを交わしたのにな」
「そ、そうだったな……。お前と交わしたその誓約を、俺様はあやうく破りそうになっちまったぜ……」
「ハハッ、大げさだな。けどまあ……俺も、なるべく昼間はうっかり度を過ぎてレアナといちゃついたりしないよう、改めて気をつけるぜ……」
「そうしてくれよな……。けど、レアナがお前のことを誰よりも慕っていることも、お前もレアナに完全に惚れちまってることも、俺様だけじゃなく、艦長やクリエイタだって分かってるだろうし……多少、お前らが人目も気にしないでいちゃついたからって……俺様も艦長もクリエイタも気にしたりなんかしねえよ。だから……レアナを大切にしてやれよな」
「あ、ああ……。ガイ、その……ありがとうな」
 ガイの言葉にホッとなった様子のバスターの口から出た素直なまでの感謝の言葉に、ガイは目を丸くしながらも笑って返答した。
「おいおい、まさかお前の口からそんな言葉が出てくるなんてよ……。レアナの影響か? お前、本当にレアナに首ったけなんだな」
「そ、そういうわけでも……いや、そうなのかもな……。俺は何よりもレアナが……いとおしくてたまらねえんだからな……」
 またも素直に自分の本心を認めたバスターを意外そうな目で見つめながらも、ガイはバスターとレアナの関係を少しもねたむこともなく、相思相愛の二人の幸福を本心から願っていた。
「ほら、これで話はおしまいだろう? さっさと食堂へ行こうぜ」
「そうだな。あ、その前に……ガイ、俺の顔、まだ赤いままだったりしねえよな?」
 バスターに問われたガイが彼の顔を見ると、落ち着きを取り戻したバスターの顔には赤みはもうなく、いつもの平常なバスターに戻っていた。
「大丈夫だって。いつものお前だぜ。俺様の顔ももう赤くねえよな?」
「お前もいつも通りだぜ。二人して赤い顔をしてると、またレアナが敏感に反応しちまうからな」
「ハハッ、あいつらしいな。じゃあ、行こうぜ」
 ガイがそう言って歩き出すと、バスターも彼と並んで通路を歩き出した。TETRAの一日は、今日もまた平穏無事に始まろうとしていた。



あとがき


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