[いつか宿る魂]


 TETRAクルー各員の個室に設けられている大きくはない寝台の上で身を寄せ合って、自分の腕の中で眠るレアナを見つめながら、同じこの寝台の上でやはり同じようにバスターの腕の中にいたレアナがいつか言った言葉を、バスターは思い出していた。

『ね、バスター……もし地球に無事に降りられたら……あたし、バスターの赤ちゃんをいっぱい産みたいな……』

 大胆にそう言ったときのレアナの微笑みは無邪気で無垢そのもので、あまりにも愛らしかった。今もバスターはそのときのレアナの笑顔を思い出したことで、彼女へのいとおしさがよりいっそう増し、腕の中のレアナをさらに力強く抱きしめていた。
 バスターもレアナも愛し合ってそのままの姿、裸のままだったので、レアナの体温が直にバスターの肌に伝わってきた。それはレアナも同じなのか、愛し合った後に裸のまま抱き合って眠りに就くと、レアナはいつでもバスターにぴったりと寄り添い、無防備な裸の体のなにもかもを彼にゆだねて、小さな子供のようにぐっすりと眠っていた。バスターの体温を直に感じることで、バスターがすぐそばにいるという安心感からも、レアナは安心しきって眠ることが出来るようだった。
 そんなレアナの純真無垢な寝顔を見つめながら、バスターは今夜もほんの少し前に彼女と深く激しく愛し合った時間を夢のように感じていた。

『レアナ……! レアナ!』
『バスター……バスター……!』

 レアナの白く華奢な体にはバスターに愛された跡がいくつも赤い小さな花のように残っていたし、バスターのたくましい腕や背中にも、愛し合うさなかに、レアナが夢中でしがみついた指の跡が赤く残っていた。二人が愛し合った時間は決して夢でも幻でもないという確かな証だった。
 そうやって愛し合うことで子供が出来る可能性がつきまとうのだということは、今ではレアナも理解していた。愛し合う行為の意味やその行為がもたらす可能性も理解したうえで、レアナは彼女を愛するバスターのすべてを受け入れていたし、バスターも子供が出来る可能性を承知で、夜が訪れるたびにレアナを激しく愛していた。

『レアナ……俺の……俺だけのレアナ……!』
『バスター……! 大好き……! バスター……!』

 しかし、今は非常事態であるため、レアナの体にも彼女自身は意識していなくともストレスがかかっている影響で、レアナの体は月経も止まっており、そのために、毎夜、バスターと愛し合っていても、レアナの体に子供が出来る可能性は、完全にゼロとは言えないまでも、非常に低いことは否めなかった。
 けれども、可能性は低いと言えども決してゼロではない。もしも想像妊娠などではなく、レアナが今度こそ本当に身ごもったならば、そのときは彼女の腹に宿る二人の愛の証である我が子も含めてレアナを守るとバスターは密かに固く誓っていた。
 それが、愛するバスターとの子供である「バスターの赤ちゃん」をその身に宿したいと切に願うレアナへの、バスターの真摯な愛の形だった。そんな密かな誓いを常に胸に秘めて、バスターは何よりも愛しいレアナと夜を共にして、深く愛し合っていた。

『バスター……』
『どうした?』
『バスターの赤ちゃん……あたしのお腹に……いつ、できるのかな……。バスターはこんなに愛してくれてるのに……やっぱり……あたしの体が原因で……』
『レアナ……お前は何も悪くなんかない。女の体は男よりもずっとデリケートなんだ……今はただ、タイミングが悪いだけさ』
『バスター……! あたしのこと……もっと……もっともっと、いっぱい愛して……! バスターがうんと愛してくれれば……あたしのお腹にバスターの赤ちゃんができる可能性も……少しかもしれないけど……高くなるんでしょう……?』
『レアナ……』
『それにあたし……バスターに愛してもらえることは……それ自体が、すごくうれしいことだもの……。バスターがいっぱい愛してくれると……あたし、いつだって本当に幸せな気持ちになれるもの……。大好きなバスターともっと……ひとつになって結ばれたいの……愛し合いたいの……』
『レアナ……お前……そんなにも俺のことを……レアナ! 愛してる……! 愛してる! レアナ!』
『バスター……! うれしい……! バスター……! 大好き……!』

 愛し合う中で、子供のことが話題に挙がると、レアナは常にその子のことを愛情をこめて「バスターの赤ちゃん」と呼んでいた。もちろんレアナが妊娠すれば、その腹の子の父親は夜ごとにレアナと愛し合うバスター以外にあり得ないのだから、「バスターの赤ちゃん」と呼ぶことは何も間違ってなどいなかった。
 それに、レアナが「バスターの赤ちゃん」という言葉を口にするたびに、他の誰でもない自分との子供をレアナは望んでいるのだと思うと、バスターは胸が熱くなるのだった。
「俺の子供……か」
 レアナと出会うまで、バスターにとって女を抱くことはただ性欲を処理するためだけの行為であり、そこには愛などかけらも存在せず、ましてや自分の子供のことなど考えたこともなかった。行為のたびに吐き出す精も厄介な代物だとしか思っていなかった。
 けれど、レアナと愛し合うようになって、バスターは初めて自分の子供――正確には彼とレアナとの子供のことを考えるようになっていた。想像妊娠までしてしまうほどレアナが自分との子供を欲していることを知ったときは、バスターはそこまで思いつめていたレアナを不憫に思うと同時に、ますます彼女をいとおしいと感じていた。
「俺とお前の子供……必ず出来るさ。いつか必ず……な」
 眠るレアナに向けてそっとつぶやくと、バスターもまた、まぶたを閉じた。
 眠りに落ちる瞬間、赤ん坊のあどけない笑い声がバスターの耳には聞こえたような気がした。それはいつか未来に産まれるかもしれないバスターとレアナの子供、すなわち、レアナが欲してやまない「バスターの赤ちゃん」の声であることを、バスターはおぼろげな意識の中で願っていた。



あとがき


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