[暖かな灯火に照らされて]


 広くはないバスターの部屋の、ブラインドが下ろされた窓辺に置かれたベッドの上。その上ではバスターがレアナを自分の膝の上に載せて抱きかかえ、抱かれているレアナはバスターにぴったりとくっついていた。
 バスターはパジャマのズボンだけを履いて上半身は裸のまま、レアナは彼女には大きなバスターのパジャマの上衣を羽織って白く細い足はむき出しになっていた。そして二人とも、どこか上気したように素肌は赤みを帯びており、その髪は汗で乱れていた。
 そんなバスターとレアナのそれぞれの姿と乱れたシーツとが、二人がほんの少し前まで熱く濃密な時間を過ごしていたことを物語っていた。
 そして、バスターがレアナを自分の膝から下ろそうとしても、レアナはいやいやとぐずる子供のようにバスターに抱きついて離れようとはしなかった。
 そんなレアナの様子に、バスターは笑いながら問いかけた。
「どうしたんだよ? 子供みたいだぜ?……まあ、お前は今さら言うまでもなく子供っぽいけどな」
 バスターはそう言いながらも、つい先ほどまで間近で見つめ合いつつ、自分と肌を重ねていた悩ましい「女」のレアナを思い出していた。それはバスターだけが知るレアナの「大人の女」としての秘められた顔だった。
(昼間とは別人みてえだよな、本当に……けど、どっちも俺が心底から惚れてるレアナなんだよな)
 そんなバスターの内心とは裏腹に、彼の言葉に反応したレアナはあどけない顔を上げて少し拗ねたような表情を見せた。
「ひどーい!……って、バスター、あたしの顔に何かついてるの?」
「い、いや、なんでもねえさ」
 バスターはそう返すと、レアナの顔に無意識のうちに見とれていた自身の本心を照れ隠すかのように、自分の赤い髪をせわしなくがしがしと無造作にかいた。
「バスター、変なの……でもいいや、許してあげる。子供っぽいって言われたって、この場所の心地よさにはかなわないもん」
「そうか?」
 バスターが不思議そうな顔を見せると、レアナはにっこりと笑って答えた。
「そうだよ」
 レアナはそのまま目を閉じると、バスターの裸の胸にさらに顔を近づけた。
「バスターの体のこの匂いも、こうやってあたしを抱きしめてくれてるがっしりした腕も大きな手も全部大好き。バスターに抱きしめられてると、こんなに幸せで安心できる場所なんて他にはないもん」
 レアナの言葉にバスターはククッと笑うと、レアナに大好きだと言われたばかりの男性らしい無骨な大きな手で、愛撫するように優しく彼女の髪を撫でた。
「大げさだな」
「大げさじゃないよ。本当のことだもん……」
 瞳を開いて短くそう反論すると、レアナはまた瞳を閉じてバスターの胸に顔を寄せた。
 二人はしばらくそのままの姿勢でいたが、汗で濡れた自分の髪の毛がバスターの裸の胸に貼り付いていることに気がついたレアナは、少し心配げにバスターに声をかけた。
「バスター……くすぐったい?」
「ああ……そうだな……だけど……」
「だけど?」
 バスターは自分に問いかけてくるレアナに笑いかけた。その笑みはレアナへの揺るぎない優しさに満ちていた。
「お前の呼吸が直に感じられるくらいお前がすぐそばにいてくれるほうがずっと嬉しいさ……」
 バスターの言葉にレアナは顔をほんのりと朱色に染めながらも、満面の笑みを浮かべた。
「バスター……あたしもうれしい……」
 レアナは微笑みながら自分の体を抱くバスターの右手を取ると、その手を愛しげに両手で握りしめた。
「あったかい……」
 バスターは紫色の両の瞳と口元に優しい笑みを浮かべたまま、無言でレアナの華奢な小さな手を握り返した。
「お前の手もな」
 二人はそうやって手を握り合ったまま見つめ合うと、どちらともなしに顔を近づけあい、自然な流れで唇を重ねていた。唇を少しだけ離してまた重ねて息を交わしあいながら、バスターとレアナはお互いへの愛を唇を通して全身で感じ合っていた。
「バスター……大好き……。あたしたち……このままずっと、いっしょだよね……?」
「ああ……俺もお前を愛してる。お前とずっとこのまま……何もかもを分かち合いたいよ」
 短く言葉を交わすと、乱れながらも真っ白なシーツの上にバスターはレアナを静かに組み伏せて横たわった。二人はひしと抱き合い、先ほどよりも深く熱く何度も唇を重ね合い続けた。それはいつ終わるともしれない行為だったが、バスターもレアナも愛し愛される喜びに浸りきっていた。
 広くはない部屋の中は、二人の間に生まれた愛の灯火に照らされているかのようだった。



あとがき


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