[星々に見守られながら]


 ブラインドの上がったままの窓から星々が流れていく様が見えるバスターの個室。窓際に配置されているシングルベッドの上では、バスターの左腕を腕枕にして、レアナがバスターと共に横たわっていた。
 二人は呼吸こそ穏やかだったが、裸のままの体には未だ熱がこもっており、激しく愛し合った痕跡が、むき出しの体だけでなく、乱れたシーツや床に落ちたままのパジャマなど、ベッドの周りのあちらこちらに残っていた。
 バスターのほうを向いて横たわっていたレアナがそっとまぶたを開けると、ちょうど自分に腕枕をしてくれているバスターの横顔が目に入ってきた。レアナはバスターの横顔を見つめていたが、少しの時間が経った後、そっと彼に声をかけた。
「バスター……」
 レアナが小さな声でそう問いかけると、仰向けになっていたバスターはレアナのほうへ顔を向けた。
「どうした?」
 レアナの声は小さかったにも関わらず、すぐに眠りから覚めて反応が返ってきたのは、バスターが生粋の優秀な軍人である明白な証だった。バスターの紫色の瞳に見つめられながら、レアナはバスターの体に身を寄せた。
「ごめんね、起こしちゃって」
「別に謝らなくたっていいさ。それで……何かあったのか?」
「ううん……たいしたことじゃないんだけど……なんだか不思議だなあって思ったの」
「何がだよ?」
 不可思議な顔をしているバスターに見つめられながら、レアナはゆっくりと口を開いた。
「地球にはあんなに人がいたのに、一瞬でいなくなっちゃって……生きている人はあたしたちとガイと艦長だけになっちゃって……」
 そこまで話すと、レアナは真珠のような涙を一粒、ぽろっとこぼした。
「おいおい、泣くなよ。大丈夫か?」
「……うん、だいじょうぶ。ごめんね、バスターはあんなにあたしは悪くなんかないって言ってくれたのに、どうしてもあの日のことを思い出しちゃったせいで……」
 指で涙を拭いながらもバスターの気遣いに笑顔を見せて返答すると、レアナは続けて言うべきだった言葉を紡いだ。
「……でも、バスターとこんな風になれて……地球人はもうこの船に乗っている4人だけなのに、その中にあたしがいて、こんなにも好きになれる人が……バスターがいたことって……すごく不思議なことだと思うの」
 レアナはそこまで言葉にすると首を伸ばし、バスターの頬に軽く唇で触れた。再びバスターの腕に頭を戻したレアナは頬を赤く染めていたが、バスターはそんなレアナを見て、優しく笑い返した。
「……そうだな。ここまで本気で愛せる女に、こんな限定された空間で巡り会えるなんて……すごい確率と幸運だと思うぜ」
 バスターの返答に、レアナの顔はますます赤くなった。そんなレアナの様子がたまらなく愛しく、バスターは顔を近づけるとレアナの唇を塞ぎ、深く甘いくちづけを交わした。バスターがようやくレアナの唇を解放すると、レアナの顔は耳たぶも含めてすっかり赤くなっていた。
「もう……バスターってば……さっきだって、あんなにキスをしたのに……よくばりなんだから……」
 赤い顔でそう言いながらも、レアナの声はどこか嬉しそうだった。それはバスターと愛を確かめ合う行為が、彼女にとって幸せなものであることを示しているのだと言っても過言ではないことを証明していた。
「したくなっちまったものは仕方ないだろう?」
 バスターが笑ってあっけらかんと返すと、レアナもまた、釣られたように笑みを見せた。
「バスターったら……いっつもそうなんだから……」
「大好物を目の前にして我慢しろなんて、そんな残酷なことを言うのか?」
「だ、大好物って……やだ、もう……」
 バスターの冗談混じりの愛の告白を受けながらも、決してそれが嫌ではなかった証拠に、レアナはより密接に、その裸の体を、やはり裸のバスターの体に近づけた。レアナの白い首や胸元には、バスターが唇で落とした愛の証が赤い花となって幾つも咲いていた。
「こんな空間に閉じこめられて……でも大好きな人とこんな風に一緒にいられて……本当にあたしたちだけこんなに幸せでいいのかな……」
「まだ気にしてたのか? 言ったろ、そんなことはもう気にするなって。お前は何も悪くなんてないんだからな」
「……うん。ごめんなさい」
「そんなに謝る必要もねえよ」
 バスターは片腕でレアナをしっかりと抱き寄せると、もう片方の腕で淡く柔らかなレアナの髪の毛を優しく撫でた。
「寝られそうか?」
「……うん。ありがとう、そんなたいしたことでもない話を聞いてくれて」
「お前にとっては大したことだったんだろう? いいさ、このくらいのことで遠慮するな」
 バスターがそう返答すると、レアナは目を閉じ、バスターの体にしっかりと抱きついた。
「ありがとう……バスター……」
「礼なんざいいさ。それより……」
 バスターは一旦、言葉を止め、レアナの額に軽く、くちづけを落とした。
「……ゆっくり眠っていい夢を見ろよ。な?」
 バスターの優しい笑顔と言葉に、レアナはしばし目の前のバスターの顔を見つめたが、やがて、笑顔と共に心から嬉しそうにうなづいた。
「……うん! おやすみなさい、バスター」
「ああ、おやすみ、レアナ」
 二人は眠りに就く挨拶を交わすと、固く抱き合ったまま、共にゆっくりと目を閉じた。安心しきった二つの寝息が部屋の中に小さく響くまで、そう時間はかからなかった。
 お互いを想い、愛し合いながら眠るバスターとレアナの姿は幸福に満ちており、そんな二人を、窓の外を流れゆく星々は静かに見守っていた。



あとがき


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