[その手と手、紡ぎ合う愛情]


 ベッドサイドの明かりを点けただけのさほど広くない部屋。片隅にしつらえられたシングルベッドの上で、バスターとレアナは裸のまま、寄り添い合っていた。
 バスターの左腕を枕にして、レアナはバスターにくっつくように身を寄せており、目を閉じて柔らかな笑顔を見せていた。バスターはそんなレアナをぼんやりと見つめていたが、やがて、右腕を彼女のほうへ伸ばすと、レアナの左手を取って握りしめた。
「なあに?……どうしたの?」
 レアナは目を開け、不思議そうな顔をしながらも、その瞳と口元は優しく笑っていた。バスターが黙ったまま右手に力を込めると、レアナもまた、握られた左手でバスターの右手を握り返した。
「いや……お前の手は本当に小さいし……柔らかいよな」
 バスターがそう呟くと、レアナはクスッと笑った。
「バスターの手が大きいんだよ。だってバスターは男の人なんだから」
「そうか……俺は男なんだから大きくて無骨な手でも当たり前だよな」
 バスターがそう言うと、レアナはまたクスリと笑い、握られた左手の指をバスターの右手の指に絡めてきた。
「そうだね、バスターの手はがっしりしてるよね……でも、あたしはバスターの手、好きだよ」
「そうか?」
「うん。だって大きくてやさしいもん……」
 レアナはうっとりとした様子でそう返すと、手を握ったまま、バスターの体にいっそう身を寄せた。バスターはそんなレアナの柔らかな髪を、自由になった左手でそっと撫でた。
「ほら……そんなふうにその手であたしのことをさわってくれると、本当に幸せな気持ちになれるんだから……」
 その言葉通り、レアナは心の底から幸せそうな声で呟いた。バスターはどこか照れ臭くなったものの、レアナの髪をゆっくりと撫で続け、顔を近づけると、レアナと唇を重ねた。
 レアナはバスターの行為を拒否するような素振りは全く見せず、むしろバスターのなすがままになり、唇を深く熱く貪られていた。その間も、二人のそれぞれの右手と左手は絡み合い、固く握り合ったままだった。
 バスターがレアナの唇を解放すると、レアナの頬は赤く染まっていたものの、その表情には喜びが浮かんでいた。
「ずっと……」
「え?」
「ずっと……バスターとこうしていられたらいいのにって……あたし、毎晩そう思っちゃうの……そんなのって……ふしだらなのかな……?」
 レアナのある意味で大胆な告白とも取れる言葉に、バスターは彼女への愛しさを込めて、左腕で彼女の何も身につけていない白く華奢な体を抱きしめた。
「そんなことねえさ……俺だって同じなんだからな……」
「ほんとう……?」
「ああ。もっとも、欲張りなのかもしれないけどな。俺もお前も」
 バスターがからかうように笑ってそう答えると、レアナはぷうっと頬を膨らませ、その顔はますます赤くなった。
「もう、バスターってば……」
「けど、欲張ったって、全然構わないと思うぜ? 俺達がこうして一緒にいて、愛し合って……幸せな想いを共有出来ることは……嬉しいことだろう?」
 面と向かってバスターに真剣な口調でそう言われたため、不意打ちを食らったように、レアナの顔はすっかり朱に染まってしまった。だが、バスターと繋いだ左手は離そうとはせず、逆に、ぎゅっと力が増していた。
 レアナは真っ赤になった顔を、隠すかのようにバスターの裸の胸に寄せた。レアナの熱い吐息が直接、バスターの胸にかかり、それがバスターにはますます愛しかった。
「……うん」
 長い時間を置いて返ってきたレアナの返答を聞くと、バスターは彼女の体を抱きしめる左腕にいっそう力を込めた。
「……俺もだぜ」
 バスターはレアナの耳元でそうささやくと、彼女の体を抱く左腕だけでなく、レアナの左手と絡み合った右手にも力を入れた。そのバスターの握力には到底、及ばなかったが、レアナも左手に込められる限りの力でバスターの右手を握り返した。
 二人は抱き合いながら、握られた手も決して離そうとはしなかった。それはまるで、バスターとレアナを繋ぐ強く深い絆の証のようにも見えた――。



あとがき


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