[触れ合う温度]


「やっぱり部屋の中でも冷えるね」
「ああ、今はなんでも節約しないといけないしな」
 そう言ってバスターは手にしたマグカップの中のコーヒーをすすった。バスターとレアナはバスターの部屋で、並んでベッドに腰かけていた。二人ともパジャマ姿で、手にはそれぞれ、バスターはブラックコーヒー、レアナはココアで満たされたマグカップを持っていた。
 真空で極寒の宇宙空間に滞在している以上、TETRA内部の室温も放っておけば下がる一方であるため、もちろん艦内の室温を調整する装置は完備されていた。だが、今のTETRAの置かれた状況では、少しでもエネルギーを節約する必要があったため、TETRA艦内の室温は通常よりも低めに設定されていた。クルーが夜間帯に自室で眠るときには、眠りに就くまでの間は個々の部屋の室温を多少上げて快適な温度にまで上げることはテンガイによって許可されていたが、バスター達は自主的にそれも節制していたので、TETRA艦内はどこも最適温度よりも低めな室温であるのが現状であった。
「ま、仕方ねえさ。それに室温が低くても、暖を取る方法はあるしな」
「こんな風にあったかいものを飲んだりして?」
 レアナはそう言うと、フーフーと息を吹きかけて両手で持ったマグカップのココアを一口飲んだ。バスターも同じように片手のマグカップの中のコーヒーを飲んでいたが、マグカップの中身を一足早く飲み干すと、隣のレアナの肩に手を置いて自分のほうへ抱き寄せた。
「それもあるけどな。あと、こういう風にくっついていても、暖かいだろう?」
「バスターってば……」
 レアナは頬を染めながらも、マグカップのココアをまた一口飲んだ。そうやってレアナがゆっくりとココアを飲み干すのを見届けると、バスターはレアナの手から空のマグカップを受け取った。
「あったまったか?」
「うん。それに……バスターの言う通り、こうしてるとあったかいね……」
 レアナはバスターの体に自分から身を寄せ、そっと目を瞑った。バスターは自分とレアナの空のマグカップをサイドテーブルに置くと、両腕でレアナを抱きしめ、静かに唇を重ねた。突然のバスターの行為だったが、レアナは特に驚いた様子でもなく、それにもう毎夜のことでもあったので、全く抗わずにバスターの口づけを受け入れていた。バスターの唇からは微かに苦いコーヒーの味が感じられたが、彼との口づけは、レアナにとっては何よりも甘く上質な菓子のようだった。
 やがて、唇を重ねたままバスターはレアナをベッドに仰向けに横たわらせた。そして唇を離すと、ささやくようにレアナに確かめた。
「レアナ……いいな?」
 それももはや毎夜のこととなった儀式と言っても良かったが、いつも自分を気遣ってくれるバスターの優しさに、レアナは胸が熱くなるのを感じていた。腕を伸ばして細く白い指先でバスターの唇をなぞると、レアナは黙ったまま、こくりと頷いた。
 バスターは再びレアナに軽く口づけると、ついばむように唇を奪いながら、片手をレアナの頬に添え、もう片方の手で器用に彼女のパジャマのボタンを上から順に外していった。レアナの白い肌が徐々に露わになり、豊かな乳房は段々と開かれるパジャマの合わせからはちきれんばかりだった。そこから先は、バスターだけが知っているレアナの姿だった――。

 全てが終わり、広くはない室内にバスターとレアナが求め合った熱が残響のように漂う中、二人が着ていたパジャマと下着はベッドの下に落ちており、ベッドのシーツも大きく乱れていた。何もかもが、二人がお互いを激しく求め合った名残を示していた。
 バスターはレアナを抱きしめて横たわっており、レアナもバスターの腕の中で彼のたくましい体に身を寄せていた。レアナを強く求めた時間を惜しむかのように、バスターは彼女に再度、けれど今度は深く長い口づけを与えた。レアナもそれに逆らうことなく、バスターにされるがままに、唇を奪われていた。
 バスターはレアナの唇を味わいながら、レアナの華奢でなめらかな体をなぞるように手を動かした。絹糸のような淡い色の髪も、その一本一本に指を絡ませて丁寧に梳いた。それはまるで、レアナの何もかもを、バスターが自身の男性的な無骨な手を通して感じ、もう一度愛そうとしているかのようだった。
 当然のことながら二人は共に未だに何も身にまとってはいなかったが、そのまま強く抱き合い、唇を重ねていた。それは単なる欲望からではなかった。お互いを心の底から想い合っているからこそ、少しでもずっと一つでありたいと願う純粋な想いからだった。
 レアナの体を心ゆくまで愛撫し終えると、バスターは唇を離し、レアナの体にブランケットをかけてやった。本来は白いレアナの肌は紅潮してほんのりとピンク色に染まっており、レアナ自身は体の力が抜けたかのようにうつ伏せになって寝そべっていた。そんなレアナの様子を見て、バスターはフッと笑い、自分も同じブランケットの中に潜り込むと、片肘を立ててその上に頭を置き、すぐ隣で寝そべるレアナの髪を撫でながら話しかけた。
「どうだ? 暖まっただろう?」
 バスターのその言葉に、夢見心地のように目をとろんとさせていたレアナはハッとした表情になったが、すぐにただでさえ赤くなっている顔を更に赤くして呟いた。
「やだ……恥ずかしいよ……バスター……」
 そんなレアナの様子を半ばからかうように、バスターは笑って答えた。
「悪りぃ、悪りぃ。けど……もう寒くはないだろう?」
「……うん」
 レアナは裸のバスターの胸に顔を寄せ、消え去るような小さな声で、けれど確かに返答した。軽口を叩いていても、バスターが自分を大切に想ってくれていることは、レアナには十分に分かっていたし、レアナもバスターを心から慕い、恋しく想う気持ちで胸がいっぱいになっていた。
 バスターはそんなレアナがたまらなくいとおしく、グッと腕に力を込めて、彼女の体を抱き直すと、レアナも自分からぴったりとバスターの体に密着し、どちらともなく濃密な口づけを交わしていた。バスターとレアナ、心の底から愛し合う二人は共に生まれたままの姿だったが、抱き合って一つになり、直に感じるお互いの体温は、何よりも熱く、愛しかった。



あとがき


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