[光輝きし存在]


 TETRAの格納庫。目の前のシルバーガン2号機を見つめながら、その2号機の主であるレアナは難しい顔をしていた。
「やっぱり、このままじゃかわいそうだよねえ……」
 そう漏らすと、レアナはきびすを返して格納庫から出ていった。

「どうしたんだ、レアナ?」
 廊下でレアナと出くわしたバスターは、レアナの手荷物を見て思わず質問していた。レアナはダスターやクリーナーが入ったカゴを右手に提げ、化学デッキブラシを左肩に担いでいた。
「あ、バスター! ちょうどよかった」
「へ?」
「きれいにするの。てつだって」
「おいおい、何を……」
「いいから。いっしょに来て」
 レアナに背中を押される形で、バスターは彼女と一緒に歩いていった。

「綺麗にって……シルバーガンをか?」
「うん!」
 レアナに連れていかれた格納庫で、バスターはようやくレアナの目的を知った。
「あのときの戦闘のままで、中のメンテナンスはやったけど、外側はほうっておいてたでしょ」
「確かにそうだけどよ……」
 バスターは頭をかきながら、シルバーガンを眺めた。あの石のような物体が起こした一連の出来事のショックが大きすぎて、機体の汚れになど目をやる余裕もなかったが、改めてシルバーガンを見ると、戦闘の爆風などで汚れ、全体が煤けていた。
「このままじゃかわいそうだよ。だからきれいにしてあげようよ、ね?」
 化学ブラシを両手で持ち、レアナは真剣な表情でバスターに訴えかけた。やがてバスターは根負けした様子になり、カゴからダスターを拾いあげた。
「やれやれ……しゃーねえな」
 レアナはぱあっと笑顔になり、さっそく2号機の外装をブラシでせっせとこすり始めた。バスターも1号機のコクピットガラスを拭き始めた。

 しばらくは黙々と掃除に集中していた二人だったが、シルバーガン後部の上翼を磨こうとレアナが機体の上に昇りかけたとき、バスターが大きな声をあげた。
「おい、やめろ! レアナ!」
「え?」
 レアナが振り返ると、顔色を変えたバスターが彼女のすぐそばへ駆け寄っていた。
「また落ちたらどうするつもりだ!」
「落ちたら……って、だいじょうぶだよ、これくらい」
「コクピットから落ちて頭を打ったことも忘れたのか!?」
 バスターの言葉に記憶の網をたぐったレアナは顔をくもらせた。
「それは……」
「俺がやるから! いいから降りてこい!」
 結局、レアナは勘弁した様子で、慎重に降りてきた。バスターはレアナからブラシを受け取ると、今度は自分がよじ登りながら、レアナに声をかけた。
「お前は手の届くところをやれよ。わかったな?」
「うん……」
 そのままバスターが2号機によじ登って上翼を磨き始めると、レアナは一瞬、迷った後、バスターがさっきまで磨いていた1号機のボディをクリーナーとダスターで磨き始めた。

「見違えたな」
「うん」
 シルバーガン1号機と2号機は、バスターの言葉通り見違えるように輝いていた。
「バスターのおかげだよ。ありがとう」
「なに、お前だって俺の機体の掃除を手伝ってくれたじゃねえか。お互い様だ」
「だって、それはバスターも……えっと、その……」
 レアナは一瞬、口ごもったが、顔をあげて言葉を続けた。
「あたしのかわりに2号機の上の翼をみがいてくれたでしょ? あのときのバスター、ちょっとこわかったけど……あたしのことを心配してくれたからだよね?……ありがとう」
「い、いや……まあ、お前は放っておくと危なっかしいからな」
 どこかバツの悪そうなバスターの様子にレアナはクスッと笑ったが、ふと手つかずの3号機に目をやった。
「ねえ、3号機もみがいてあげようよ」
「ああ? そこまでお前や俺がやらなくたって、ガイにやらせりゃいいだろう?」
「俺様がどうしたって?」
 バスターとレアナが振り向くと、そこには当のガイがいつの間にか立っていた。
「お前ら二人とも姿が見えないからどうしたのかと思ったら……シルバーガンの掃除か?」
「ガイ! ちょうどよかった。いま3号機もみがこうとしてたところなの。あたしとバスターもてつだうから、おそうじしようよ!」
「おいおい、俺まで決まりかよ?」
 バスターが反論すると、レアナが少し悲しげな顔で彼を見上げた。
「バスター、あたしの2号機のそうじはてつだってくれたじゃない……それに、このままじゃ3号機がかわいそうだよ?」
 レアナの言葉に、ガイがニヤリと笑いながら割り込んできた。
「へえ。やっぱりレアナには甘いんだな、バスターさんよお?」
「……わーかったよ! 俺も手伝えばいいんだろうが! このままじゃレアナの言うとおり、3号機が不憫だからな!」
 レアナとガイの二重攻撃に観念し、バスターがブラシを掲げて声を張り上げた。

「あいつらめ、何をやっとるのかと思ったら……」
 わいわいと騒ぐバスター達は気づかなかったが、格納庫の入り口にはテンガイとクリエイタが立っていた。
「ケンカ シテイルワケデハナクテ ヨカッタデスネ」
「うむ。それに……」
 クリエイタがテンガイのほうを見上げると、テンガイは腕組みしたまま呟いた。
「『輝ける銀の銃』の名の通り、シルバーガンが再び輝きを取り戻したわけだ。そこに気づくほどの余裕が戻ってきたということだな……いい傾向だ」
 それだけ言うと、テンガイは格納庫入り口から去っていき、クリエイタもそれに従った。格納庫の中は先ほどと変わらず賑やかで、既に磨き終えたシルバーガン1号機と2号機がテンガイの言葉通り、光り輝いていた。



あとがき


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