[The Only Method]


「ガイィ!!」

 眼前で起こった出来事、それは幾度もの激戦を生き延びてきた軍人であるテンガイにとっては、そして「戦場」においては、しごく当たり前のことだった。即ち、部下あるいは同僚が目前で敵に殺されるという現実は。自分自身や今は亡き戦友・五十嵐=剛も、何度も体験したことだった。何人もの仲間の死を見届けて生き続けてきた。

 だが、今、この瞬間に起こったこと――戦友にして親友であった五十嵐=剛の遺児であるガイの死――は、テンガイに激しいショックを与えた。ガイの乗っていたシルバーガン3号機の黄色い機体がバラバラとなって崩れ落ちていったとき、テンガイの脳裏には幼い頃から知るガイの思い出が駆け巡っていた。子供の頃から元気で熱血漢だったガイ。成長したその姿に、テンガイは若き日の五十嵐=剛の面影をだぶらせることがしばしばあった。

 TETRAクルーである部下3人は自分にとっては子供も同然だった。中でもガイは、親友の息子ということもあり、色々と問題を起こす存在ではあったものの、自然と目をかけていた存在だった。そのガイが死んだ――テンガイは一瞬、激昂する寸前にまで感情を高ぶらせた――だが、次の瞬間には、「これから自分にはこの破損したTETRAで何が出来るのか」という冷静な思考を巡らせていた。

 このままでは、ここで「激情」にかられてしまっては、あの忌々しい「石のような物体」の思惑通り、自分達は皆殺しにされかねない。仲間の予期せぬ死に、先ほどまでの自分と同じように呆然としているに違いない残されたクルー、即ち、バスター、レアナ、そしてクリエイタの3人は何としてもこの場から逃れさせなければならない。ならば、そのためには――?テンガイが行き着いた答えはひとつだった。

 不幸中の幸いにも、TETRAにはまだ最大出力を放出させるだけのエネルギーは残っていた。そして、「石のような物体」のエネルギー測定値は突出しているとはいえ、まだ最大値には至っていない。ならば、自分がすべきことはただひとつ。テンガイは覚悟を決め、TETRAを「石のような物体」に向けて発進させた。

「艦長!何をするつもりだ!」
「やめて!もうやめてぇー!」

 先にガイが命を落としたときと同じ、いや、それ以上に悲痛なバスターとレアナの叫び声が通信から流れてきた。出来ればこのふたりとクリエイタに遺言を残したかった。

『まだ若いお前達には未来がある。どんな小さな可能性でも、未来が存在している事こそ素晴らしいことはない。だからお前達は何としても生きろ。死にゆく老兵への未練など残すな。そして、最後まで決してあきらめるな』

 ……そう伝えたかった。だがもう、そんな猶予は残されていない。そんな悔恨を残したまま永遠に別れることはテンガイにとって心残りだったが、それでもTETRAを操縦する手は止めなかった。「石」はもはや目前まで迫っていた。もう後戻りは出来ない。テンガイは険しい表情のまま、「石」と対峙した。

「ガイ、五十嵐……ワシもそちらへ直に行く。そして、また出会えることが出来れば良いな……彼岸ではなく、この此岸の側でいつか……」

 テンガイは最期の時を目の前にしてそう呟き、静かに瞼を閉じた。次の瞬間、TETRAは原形をとどめないほど大破した。その衝撃に圧倒されたのだろうか、「石のような物体」は天高く舞い上がり、成層圏をも貫いて宇宙へと退避していった。この「石のような物体」に対しては、後にテンガイから「未来」を残されたバスターとレアナが挑むこととなる……。

 テンガイはTETRA大破と同時に、命を落とした。享年は71歳――「地球連邦随一の技術者にして猛々しき軍人」の壮絶な、だが静かな最期だった。



あとがき


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