No.54…"シルバー事件"(1999.10.7/PS/開発:グラスホッパー・マニファクチュア/販売:アスキー) |
No.54…"シルバー事件"(2008.12.5/PS ゲームアーカイブス/販売:グラスホッパー・マニファクチュア) |
舞台は現代日本に限りなく類似した架空の国家「カントウ」。この市場経済主導型社会主義国家の中心
が「国家経済行政特別自治区」、通称「24区」である。この「24区」において、多発する凶悪犯罪に対抗し、その被疑者を「処分」という名で射殺する特権を与えられた「凶悪犯罪課」通称「狂犯課」が立ち上げられた。これは、「狂犯課」に属する刑事であるクサビ・テツゴロウと彼の部下となる一人の若手捜査官、そしてルポライターのモリシマ・トキオを語り手として残された、「シルバー事件」と呼ばれる謎の事件に関わる一連の事件の記録である。 最初に言っておくと、これは「ゲーム」ではないと思う。「体裁としてゲームとしての形を取った犯罪記録」とでも呼ぶべきか。まずディレクターの須田剛一氏が、ゲームとして作ろうとしていないのだから、どうしようもない。移動は面倒くさいし、画面内チェックもわずらわしい。しかし、それでなお、人を惹きつけてしまう魅力が、この作品にはあるのだ。よって、「まっとうなゲーム」を楽しみたい方にはオススメ出来ないが、PSの異色ADV『ムーンライトシンドローム』を始めとした「須田剛一作品」を読みたい方には、須田節全開のこのシナリオの数々は間違いなくオススメである。 物語は数章で構成されており、まずクサビらの捜査現場での物語が語られ、それが終わると、同じ事件をトキオの目から見た、いわば別の視点から見た形で、再度、物語が語られる。同じ事件なのに、関わった立場が違うだけでここまで物語は変わるものかと思うと、とても興味深いものがある。 この『シルバー事件』内で私がいちばん好きなエピソードは「パレード」である。隠れた名作と名高い邦画『誘拐』を連想させるシナリオだが、この中で、クサビと彼の部下であるコダイ・スミオの単なる仕事上だけではない、親子にも似た関係が映し出される。それ故に、ストーリーの辿る結末への悲しさがやるせないのだ。 繰り返しますが、これはまっとうな意味での「ゲーム」ではありません。「ゲーム」としては駄作の部類に入ると言っても過言ではありません。それでも私はこのアクがぶくぶくと浮き出ている作品に惹かれてしまったので、ここでこの作品を紹介します。 ただ、関連作……と言うより事実上の続編であるPS2&DSソフト『花と太陽と雨と』は、たとえ『シルバー事件』ファンであってもついていけないところがありまくりですので、「まっとうなゲーム」を楽しみたい方は避けて通るべきでしょう。尋常な思考の持ち主には理解不能な代物なので。しかし一方では『シルバー事件』をクリアされた方には是非やってほしいという思いが矛盾しています……。 |
(関連シナリオ作品) 『ムーンライトシンドローム』 (1997.10.9/PS/開発・販売:ヒューマン) 『花と太陽と雨と』 (2001.5.2/PS2/開発:グラスホッパー・マニファクチュア/販売:ビクター・インタラクティブソフトウェア) 『花と太陽と雨と 終わらない楽園』 (2008.3.6/DS/開発:ハ・ン・ド/監修:グラスホッパー・マニファクチュア/販売:マーベラスエンターテイメント) 携帯アプリ『シルバー事件25区』 (2005年10月3日〜2007年3月、2007年12月〜2011年5月/対応サービス:i mode / EZweb / Yahoo! ケータイ/配信元:ライブウェア) 小説『シルバー事件 case#4.5 フェイス』 (1999.11.4/ファミ通文庫/著者:是方那穂子/発行:アスキー/発売:アスペクト) |
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