No.60…"セツの火"(2007.4.4/Windows2000・XP・Vista (ダウンロード販売)/開発・販売:メディア・ビジョン)

 この作品は正確には「ゲーム」ではなく「テキストノベル」である。監督・脚本を務めた遠藤正二朗氏も、「ゲームサイド」2006年12月号に掲載されたインタビューにて、そう言及している。よって、マルチシナリオやマルチエンディングを期待している人には悪いが、その期待は全て裏切られると、最初に断っておく。

 物語は主人公・和泉刹(いずみ・せつ)の兄・将明の死と、その不可解な葬儀から幕を開ける。親族であるのに不当な扱いに業を煮やした刹は、兄の変わり果てた無残な姿を目の当たりにしてしまう。それから間もなくして、刹は兄の通っていた界救学園高等部からスカウトを受け、推薦入学という形で転入することになる。刹はそこで、兄の行っていたことを知り、兄と同じ力を持つ者らと出会い、自らも眠っていた力のために、否応なしにその渦中に巻き込まれていく……。

 一見あらすじを知ると、「学園伝奇もの」のように思うかもしれない。確かに前半はそういった雰囲気もあるが、中盤以降は、それよりも「絶望的状況下での抵抗劇」としての色が遥かに濃い。これは、前述のインタビューでも遠藤氏が述べたとおりである。

 そう、これは「抗う者」の物語である。護るべきものを護るため、次代に希望を伝えるため、大切な人の居場所のため……理由は様々であっても、最後まで残った者達は、刹を筆頭にそれぞれの持つ方法で抗い続ける。たとえ悲惨としか言いようがない状況となっても。それこそ「しぶとい」という単語が、もっとも当てはまるだろう。単純な伝奇ものなら対処のしようもあったろうが、刹らが向き合わされる状況はあまりにも理不尽でどうしようもない。それでも彼らは生き続けることで、抵抗することを止めようとはしないのである。

 ラストをどう解釈するかは、この作品を最後まで読んだ人の自由である。だが、それがいずれにせよ、そこには読んだ者の心に最後に残ったものがそのまま反映されるのではないか、そう思う限りである。



OFFICIAL SITE

CHARACTERS

CONTENTS

inserted by FC2 system