No.10…"セプテントリオン"(1993.5.28/SFC/開発:フィールド/販売:ヒューマン)

 今は亡きヒューマンから販売されたADVゲームである。同社の『ザ・ファイアーマン』が映画『バックドラフト』を、『クロックタワー』がダリオ・アルジェント監督作品『フェノミナ』を彷彿とさせるオマージュ作品であると同様に、この『セプテントリオン』も映画『ポセイドン・アドベンチャー』に大きく影響を受けているオマージュ作品である。

 舞台は豪華客船。しかし、大波に飲み込まれて転覆し、多くの乗客が死亡した。生き残った乗客達はそれぞれに脱出ルートを捜し求め、時には対立しながら、そして時にはお互いに手を取り合って助け合いながら、たったひとつの脱出口を目指す。主人公は4人いるが、誰も超人などではない普通の人間で、さして大差はない。ただし、それぞれのプレイヤーキャラには「必ず探し出して一緒に脱出しなければならない人物」がいる。例えば主人公が船員の場合は、この事故の責任を負い、生きてその罪を償わなければならない船のオーナーを最低限、助けなければならない(余談だが、このオーナーの名は「イズメイ」といってタイタニックのオーナーと同名である)。他にも老医師は妻を、乗客のひとりである屈折した青年は義理の妹を、牧師はある子供二人を助けなければならない。ちゃんとそれぞれの主人公がドラマを持っているのだ。特に牧師は『ポセイドン・アドベンチャー』の主人公であるスコット牧師と状況がそっくりである。

 この『セプテントリオン』で特筆すべきは、時間経過に従って、どんどん船の水深角度が変わっていく点である。例えば、ついさっきまではなんとかよじ登れた壁が、突然の船体の揺れによって垂直となってしまい、落下して気絶したり仲間が死亡する場合もある。まさに先を読めないADVなのである。

 また、このゲームでは助ける人物に「隠しポイント」が設定されており、このポイントの総合計でEDが変わってくる。例えばヤケになって酒を飲んでいる男性キャラよりも、ショックで耳が聞こえなくなってしまった女性キャラや、ある程度の高齢者などのほうがポイントが大きい。ただし、彼らを助けるのは容易なことではない。ベストEDを見るためにはそれなりの苦労をしろ、ということかもしれない。

 ちなみにスタッフロールを見て頂ければわかるが、この作品は「映画」という形を取っている。なにせキャラ達を演じた架空の役者名までも表示されるという凝りようである。伊達に「シネマティックライブ」のシリーズではないのである。

 なお、この『セプテントリオン』にはPSのリメイク版が発売されているが、絶対に買ってはいけない。新品にしろ中古にしろ3桁台の投げ売りならシャレで買ってもいいかもしれないが。なんでもかんでもポリゴンにすればいいという訳ではない悪しき見本である。

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