No.22…"街"(1998.1.22/SS/開発・販売:チュンソフト)
No.22…"街 運命の交差点"(1999.1.28(廉価版:2002.4.4)/PS/開発・販売:チュンソフト)
No.22…"街 運命の交差点 特別編"(2006.4.27(廉価版:2007.8.30)/PSP/開発:チュンソフト/販売:セガ)
No.22…"街 運命の交差点 特別編"(2012.3.27(ダウンロード版)/PSP/販売:チュンソフト)

 『弟切草』『かまいたちの夜』に続くチュンソフトのサウンドノベルシリーズの第3弾である。しかし、この『街』は前2作とは大きく変わっている。今までのサウンドノベルの主人公は、あくまでプレイヤーの分身たる無名の「僕」だった。『街』ではこのシステムを大きく変えて、渋谷を舞台に、8人の主人公の物語が語られていく。前2作とのもうひとつの大きな違いとして、画面が実写になったこと、そして主人公の姿がシルエットではなく明確に画面上に表示されるようになったことが挙げられる。PS版では「シルエットモード」というモードが存在し、『かまいたちの夜』のような感覚でプレイすることも出来るが、このゲームは役者が熱演している実写画面にこそ味がある。シルエットモードでしかプレイしたことがない人は、是非、実写モードでプレイしてみてほしい。それくらい、この『街』の実写画面には魅力があるのだ。

 『街』の大きなポイントとして、ザッピングとTIPSが挙げられる。ザッピングについて例を挙げれば、主人公のうちの一人が倉庫に行って、鍵をかけたとする。すると、その倉庫に隠れていた別の主人公は倉庫から出られずにゲームオーバーになってしまう。こういった要素が絡み合っているため、「一人の人間の他愛もない行動が他人の運命を左右する」という醍醐味が味わえるのだ。次にTIPS。これは、画面上の文章で色の違う単語をクリックすると、その単語の詳細な意味が表示されるというもので、これがとにかく凝っていて面白い。二重人格の脚本家のシナリオの場合はやたらと文学的かと思えば、ダイエットに励む女の子のシナリオではいたるところに「太る」「肥える」といった説明が出てくる。ザッピングはもちろんだが、このTIPSを考えただけで、相当の労力を割いたのではないだろうか。

 ただ、欠点もある。主人公は8人おり、ひとりひとりのシナリオを一日づつクリアしていく。8人全員の一日が終わった時点で、次の日のシナリオに移行する。これが感情移入出来るシナリオやキャラクターならいいのだが、中にはどうしても好きになれないシナリオというのも存在する場合がある。私の場合、彼女を妊娠させてしまって、てんやわんやする男子高校生の話がどうもイマイチだった。いちばん辛かったのは、おまけシナリオの「青ムシ抄」。このシナリオだけは実写ではなく、アニメーションで画面が展開されるのだが、どうにも話に思い入れることが出来なかった。

 しかし、同じ隠しシナリオでも、『街』を全てクリアした方には是非見てもらいたいシナリオがある。「花火」というタイトルであるこのシナリオは非常に短いものだが、おそらく『街』プレイヤー全ての心に訴えかけてくる素晴らしいシナリオである。特に「父と息子」というシチュエーションにぐっとくる方にはたまらない物語である。

 『街』は残念ながらSS版もPS版もセールスが振るわなかったらしく、続編の構想も頓挫してしまったらしい。しかし、未だに「ファミ通」のベスト20に入っているサターンの唯一のゲームであることからもわかるが、実写だからといって先入観を持たずにプレイしてみてほしい。「ゲームだからこそ出来たシナリオ」であり、実写画面の役者の生き生きとした演技も楽しいものなのだから。

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