『斑鳩』―――ストーリー



Prologue「巻雲」(Cirrus)

「鳳来ノ国」……、元々、本州の外れに位置した小国である。しかし、今では自らを「神の力」を得た「神通者」と称し、「選民思想」と「平和統合」の名の元、各地を武力で制圧するまでになっている。
 事の起こりは、国の中心人物である「鳳来 天楼」(ホウライ テンロウ)なる人物が、数年前に地中深くから掘り出した「産土神黄輝ノ塊」(ウブスナガミ オウキノカイ)と呼ばれる物体にあり、物体との遭遇時から、天楼は奇跡とも呼べる力を次々に発揮し始めたという。

 その最中、人の自由を望み、鳳来に戦いを挑む組織「天角」(テンカク)があった。彼らは「飛鉄塊」(ヒテッカイ)と呼ばれる戦闘機を使い、鳳来と戦っていたが、次第に勢力を失い、全滅する。

 しかし、その中で奇跡的に生き残った青年がいた。その名を「森羅」(シンラ)という。


Chapter:00「斑鳩」(IKARUGA)

 天角壊滅から数日後……朽ち果てた組織の跡地で、残骸や残された部品をかき集め、黙々と飛鉄塊を組み立てる森羅の姿があった。

 死に場所を探しているわけではない……しかし、生き残ることを考えているわけでもない。やり場のない衝動は燃えかすのようにくすぶり、鬼のような形相として表れる。
 「自由」……そんな具体性の無い「平和」を望むことが禁制とされる世の中において、今やこの 男の目的は行動を正当化するための言い訳でしかなくなっていた。


 やがて、夜も明けようというころ、森羅は整備を終えた飛鉄塊「白鷺」に乗り込む。

森羅(何を焦っている?……いや、焦ってなどいない……いるはずが無いのだ……しかし……)

 静かに動力を始動させ、ゆっくりと飛び立つ……上空800m、警戒網を越えた「白鷺」に鳳来の飛鉄塊が攻撃を始める。
 森羅は、そのたぐいまれな腕前で性能の低い「白鷺」を乗りこなし、敵機を次々と撃破してゆく。

森羅(なぜ、俺は戦っている?……自由に生きるためだろう?……だが、俺はどこへ行こうとしている……?)

 突如、その眼前に鳳来の武将「浅見 影比佐」の仏鉄塊「烏帽子鳥」が現れる。

浅見「天角の生き残りか……たった一人でここまで来るとはな……」
森羅「だからどうした!貴様らとは命の賭け方が違うんだよ!!」
浅見「……青いな……」

 戦闘に入った森羅は、浅見の攻撃を巧妙にかわし、有利に戦闘を進めているように見えたが……、

浅見「フッフッフ、なかなか良い腕をしている。ならばこれでどうだ?」

 「烏帽子鳥」から五本の光弾が放たれ、曲線を描きながら「白鷺」の方へと向かう。

森羅「誘導弾!?」

 「白鷺」は「烏帽子鳥」から放たれた誘導弾の直撃を受け、大破。煙を吹きながら落ちていく。

森羅「くそっ!」
浅見「若造、単身で挑むとは勇敢な事だが……命は賭けるものではないぞ」
森羅「寝言をっ……まだ終わったわけじゃねぇ!」
浅見「フッ……生きていたら、また会おう」

 浅見は、落ちていく「白鷺」を見届けることなく飛び去ってゆく。


 森羅の飛鉄塊は黒々とした煙を捲き散らし、人里離れた山奥の村へと墜落する。墜落の瞬間、機体の外へ放り出された森羅は、村の老人たちに助けられる。
 その村は「斑鳩の里」といい、「平和統合」によるしわ寄せで、世間から捨てられた老人たちの村、俗にいう姥捨て山のような場所であった。森羅は一時、村の長老的存在・風守(カザモリ)老人の家にかくまわれる。
 「風守老人の屋敷」……風守に付添われ、森羅は眠り続けている。障子越しに夕日が差し込み、夕焼け色に染まった部屋の外からは、蝉時雨が聞こえてくる。

 眠り続ける森羅の意識中に、ぼんやりと二人の人影が現れる。

男の影(大丈夫……いつかきっと、分かり合える日が来る)
女の影(そして遠い未来へ、命は受け継がれるから……)
森羅(……未来……)

 森羅の意識は戻りはじめ、ぼやけた視界の中に風守老人の姿が映り込む。

森羅「!?……ここは……」
風守老人「ここは、斑鳩の里と呼ばれておる。ぬしは、飛鉄塊で墜落して来たんじゃが……覚えておるかな?」
森羅「斑鳩の里……姥捨て山……ぁ、いや」

 風守老人は静かに笑みを浮かべ……、

風守老人「よいよい……世の中からは、そう呼ばれておるようじゃな」
森羅「……ハッ!! 俺の白鷺は!?」
風守老人「白鷺?……あぁ、ぬしの飛鉄塊か……あれは、もう駄目じゃな。まぁ、命があっただけ、ありがたいことと思わねばな」
森羅「……あれが最後の白鷺だった……ッ! ……くそッ! ……畜生! ……」
風守老人「……」


 二ヶ月後……。  村近くにある崖の上で夕日を眺める森羅。そこへ、ゆっくりとした足取りで風守老人がやって来る。

風守老人「行くのかね?」

森羅「世話になりました。この御恩、一生忘れません」
風守老人「うむ。……しかし、ぬしはなぜ戦う? ……ある意味では、鳳来に従った方が、楽な生き方もできよう?」
森羅「一人になってしまった今となっては、天角の大義名分は無いも同然……だが、生涯の中で一瞬だけでもいい……例え、この身が灰燼に帰すとも、後悔の無い生き方としたいと思う。自分は鳳来を倒し、自由を取り戻すことを、それと決めた」
風守老人「ふむ、もっともらしいが……それは身勝手な言い分とも言えないかね?」
森羅「しかし、己の信ずるもののために戦い、結果、それが皆の平和や自由に繋がるのだとしたら、それは良きことではないのか?」
風守老人「世の中には、それを望まぬ者もおる。また、それとは違った形の平和や自由を望む者もおる……結果……自由のために平気で人を殺す……我々は、自由を求める殺戮者であってはならない……わしはそう思う」
森羅「……」

 困惑する森羅に、風守老人は微笑み……そしてうなずく。

風守老人「平和や自由の形は、人の数だけある。戦う時はそれを忘れぬことじゃよ……ところで、ぬしは丸腰で戦うつもりなのかな?」

森羅「それは……」
風守老人「ホッホッホ、付いて来られよ」
森羅「どこへ?」
風守老人「付いてくれば分かる」

 かすかな微笑みを浮かべ、風守老人は歩き始める。


 森羅は村の外れにあった洞窟から地下へと案内される。鉄骨で組まれた地下空洞には、さまざまな機器や装置と共に、一機の飛鉄塊が存在していた。

森羅「これは……飛鉄塊」
風守老人「うむ……斑鳩という」
森羅「こんな所に………しかし……」
風守老人「姥捨て山とは、よく言ったものでな……今の世の中にとって、わしらは不要な存在らしい……じゃが、この世の中の命、意志、存在、すべてのものにはちゃんと存在理由がある。不要なものなぞ存在しない。斑鳩は、わしらにとっての自由の形であり、存在の証じゃ。人を活かすためのものと……そう、わしらは信じとる」
森羅「人を活かす……?」
風守老人「今は理解できなくともよい。各々、それに気付く時がやってくるじゃろうて」

 近寄るにつれ、整備していた二人組みの新海・天内が、森羅に気付いた。

新海「ン、粋な面構えが来よったな……風守の爺様、そいつか?」
風守老人「うむ、森羅じゃ」

 森羅は二人に向かって軽く頭を下げる。

新海「わしは、新海(シンカイ)。ここで手伝いをしとる。そっちの爺さんは天内(アマナイ)と言うて、この斑鳩を作った元技術屋の大先生じゃ」

 天内は整備の手を止める事なく、チラっと横目で森羅を見ると、

天内「フンッ! ……殺気立ちおって、まるで鬼の面じゃ」
新海「おいおい、まだ乗るつもりかいな? やめとけ、やめとけ」
天内「フンッ! 大きな世話じゃ……おい、色男ッ!! ……壊・す・な・よ!」
風守老人「斑鳩は、普通の飛鉄塊とは少々勝手が違うでな。訓練が必要じゃが……乗るかね?」

 風守老人の言葉に、森羅は無言のままうなづいた。


Boss:00「再会」(Again)

 森羅の訓練も進み、実機を使った試験飛行も最終段階に来ていた。しかし、極秘に行われていた訓練だが鳳来はすでにこの情報を察知し、偵察部隊を発進させていた。


天内「いいな、敵自体は擬似体を使うが、発射される光弾はあっちもこっちも本物。気ぃ抜いたら、そいつがおまえさんの棺桶になるっつうわけじゃな。はッ、はッ、は」
新海「……笑い事じゃなかろうが……」
天内「こっちゃぁ、あの色男が生きようが、死のうが関係ないが? わしの斑鳩を壊されちゃぁ……たまらんね」
新海(溜め息)
風守老人「ん……準備は良いかな?」
森羅「いつでも」
風守老人「……始めてくれ」

 訓練が始まると、森羅は斑鳩を使いこなし、擬似体を次々に倒して進んでいく。

新海「ハッ、こりゃ大したもんだ」
天内「フンッ! 斑鳩なら当然の……?」
森羅「あいつは……?」
風守老人「んっ?」
天内「……これは何じゃ? ……色男ッ! 敵じゃッ」
森羅「分かっている」

 上空から、浅見の仏鉄塊「烏帽子鳥」が現れる。

浅見(あの時の若造……生きていたか……)「フッフッフ、なるほど、修行とは感心なことだ。少しは強くなったのかな?」
森羅「さあな……試してみるか?」

 浅見の目つきが変わる。

浅見「フッ……では……行くぞ」

 再び「烏帽子鳥」との戦闘開始……斑鳩の性能に押され、浅見は苦戦を強いられる。

浅見「ええぃ、あれは一体!?」(機体属性を瞬時に変化できる飛鉄塊など……しかも、こちらの光弾を吸収しているというのか……)
森羅「どうした、大将」
浅見「……ならばッ!」

 浅見は誘導弾を使って弾幕を張る。「斑鳩」はその誘導弾を全て吸収……そして「力の解放」を発動させる。

森羅「もらった!」
浅見「クッ!」

新海「やったか!?」

 「力の解放」が「烏帽子鳥」に直撃したと思われた瞬間、浅見は変わり身の術を使い、爆風の中から脱出する。

森羅「か……変わり身……」

浅見「フッフッフ、なかなか面白い飛鉄塊を手に入れたようだ……森羅殿、また会おう……」
森羅「……」

新海「スカした野郎だ」
風守老人「だが……手ごわい……」

 不安な面もちで、帰還する斑鳩を見つめる風守老人たち……。


Chapter:01「理想」(ideal)

 試験飛行において、浅見の仏鉄塊と互角に戦った「斑鳩」。その存在を危惧した鳳来は、転送装置「不動明王の剣」を包囲する。出撃を決意した森羅たちは、反抗を開始する。

 森羅は操縦席に乗り込み、斑鳩を起動開始する。
斑鳩「System boot……Final check. 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・存・前……20 min.after ejecting from the sword of Fudoumyouoh,the main engine ignites.Are you ready?」
風守老人「我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し……皆の衆……よいな?」
天内「やれるだけの事は、やってある。後は奴の腕次第じゃ」
新海「気を付けてな」
森羅「……やってくれ」

 斑鳩を固定していた固定鍵が外され、機体は下へ向けて落下。床に展開された転送門へと突入する。
 やがて、上空に浮遊する転送機「不動明王の剣」が光を放ち始めた瞬間、「斑鳩」は大空へと射出された……。


 嗚呼、斑鳩が行く・・・・・・ 望まれることなく、浮き世から 捨てられし彼等を動かすもの。 それは、生きる意志を持つ者の 意地に他ならない。


風守老人「点滴が石をうがつその日まで……我々の道は険しい……」


Boss:01「仏鉄塊」(Butsutekkai)

再び、浅見の仏鉄塊「烏帽子鳥」が森羅達の行く手を阻む。

「無駄な殺し合いをして何になる。あんたにも分かっているはずだ」

「曲がりなりにも、私は鳳来の人間でな。貴様等の立場は解しても、見逃す訳にはいかぬのだ……」


Chapter:02「試練」(Trial)

「見てみろ、この有り様を。その誇りが生んだのは、死人の山だけではないか。私には民の命を守る義務がある。これ以上余計なことをしないでくれ……ここから出て行ってくれ……」

「阿魏ノ国」そこは忘れもしない屈辱の場所だった。かつて、鳳来と敵対していたこの国を守るべく森羅と篝は力の限り戦ったが、仏鉄塊「仏法僧」を操る法角の非情な民間人への攻撃によって国長が降伏。撤退を余儀なくされ、涙に暮れた場所である。

今や鳳来の支配下に置かれたこの国の奪還、そして地下に建造中の軍事拠点を叩く為、森羅達は試練の奇襲を決行する。


Boss:02「奪還」(Recapture)

「何を騒いでいるかと来てみれば、性懲りも無くまたおまえらか。今更廃墟と化した阿魏を取り戻してどうするつもりなのやら……」

「貴様には、何を言っても分かるまい……分からんだろうさ」

森羅の頭の中では、様々な思いが駆け巡っていた。炎の中で逃げ惑う人々。死体の山。炎上する家屋の上で涙を流し白旗を振る国長の顔……

そして、森羅達は再び法角に挑む。


Chapter:03「信念」(Faith)

戦闘は膠着状態になりつつあり、消耗戦の様相を呈していた。消耗による自滅を避けなければならない森羅達は「鳳来ノ国」への潜入を計画する。
難攻不落と言われる要塞渓谷。そして、敵に対する情報の少なさから、自信の持てない作戦に渋る天内だったが、森羅の信念に迷いが無いとみると、黙したまま整備室へと向かう。

翌日の朝、斑鳩の操縦席へ向かう森羅は、何気ないところでつまづき、そして転ぶ。「あわてるでない」と笑う老人達とは対照的に、篝は険しい表情で森羅を見つめていた。


Chapter:04「現実」(Reality)

渓谷を突破し、鳳来ノ国へ入った森羅達を待ち受けていたのは、「鬼羅」の率いる大部隊であった。圧倒的な力と巨大さを誇る仏鉄塊「鶚」に対し、天内の導き出した戦略は、接近戦による弱点部の破壊だった。

やがて、森羅達は仏鉄塊「鶚」の撃破に成功するが、これまでの激しい連戦は、森羅の身体機能を着実に蝕み、飛鉄塊乗りとしての宿命(体に埋め込まれた箍と機体との神経接続により、神経細胞の破壊が徐々に進み、死に至る)を早めてしまっていた。

篝には、分かっていた。このまま戦いを続ければ、どういう現実が待っているか……だが、森羅は無言のまま鳳来の待つ地下空間へと突入して行った。


Final chapter「輪廻」(Metempsychosis)

(まだだ……このまま……終われない……あと少しの……間だけでいい……持ち堪えてくれ……)

朦朧とする意識の中で、精神力だけが今の森羅を支えていた。

地下中枢へ突入した森羅達は「鳳来天楼」と対峙する。虚しくも繰り返される起源の言葉。その最中、森羅は夢の中で出会った精神存在の声を聞く。

やがて、身体の限界を迎えながらも鳳来を倒した森羅の目前に「産土神黄輝ノ塊」が姿を現す。

「技師……長……制御装置……外してくれるか?」


Final chapter「産土神」(The Stone-Like)

森羅の状態に気付いた天内は、これ以上は無理と判断し撤退命令を出す。だが、森羅は最後まで戦う意思を変えない。その意味を理解できる篝は、老人達の反対を他所に呟く。「それ故に……悔いの残らぬよう、やり遂げなさい。我、生きずして死すことなし。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し……わかっていたはずだった……私達は、自由を見られるかしら?」「もうすぐ……な」そう答える森羅。

長い沈黙の後、風守老人は静かに「……そうか……そうじゃったな……」と制御装置の解除を天内に促す。天内は「一度……一度しか撃てんのだぞ! この意味がわかっとるのかッ!」と食い下がるが、森羅の「……技師長……あんたを信じるよ……」の言葉になす術も無く泣き崩れた。


Epilogue「精神存在」(Spirit being)

Release the restrain device.Using the released power may result the possibility of destruction the ship.
(リミッターを解除します。しかし、「力の解放」の使用と同時に機体が崩壊する可能性があります)

You did your best. Was I helpful for you?
(あなたは、最善を尽くしました。私は、あなたのお役にたてましたか?)

I am deeply grateful to you.
(ありがとう…)


制御装置を解除した斑鳩は、蓄えた全ての力を一気に解放し、この世から消え去った……



やがて、森羅と篝は精神存在へと変化を遂げる。浮遊する二人の前に、かつて森羅が夢の中で出会った精神体が現れる。

森羅「これで……良かったのか?」
精神体 男「大丈夫……何時か、きっとわかり合える日が来る」
精神体 女「そして、遠い未来へ……命は受け継がれるから」


―終―


参考資料:月刊アルカディア2001年7月号特集記事&2002年2月号掲載設定資料、5月号特集記事、ドリームキャスト専用GD-ROM『斑鳩』より転載及び一部加筆

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